エッセイ&土倉のTVCF


北海道新聞に掲載しているエッセイを掲載しました。



楽しもう。今日の若さを

 ある日の深夜、すすきのでタクシーに乗ろうしたら、タッチの差で若者二人に先を越されてしまった。しかたなく後続のタクシーを待っていたところ、驚いたことにその若者が降りてきて譲ってくれると言うではないか。「今どきの若者は・・・」というセリフはメソポタミア時代からあるらしいが、その時は「今どきの若者も捨てたものではないな」と感心させられた。固辞して先に行ってもらったが、若者の言葉にはちょっと落ち込んでしまった。「おれたち後でいいっすよ。おじさん」
 自分では若くないことは十分理解しているつもりだし、お兄さんでないことも分かっているが、面と向かって「おじさん」にはショックだった。タクシーの中でしょぽくれていた。

null画像 楽しもう。今日の若さを(なし)

 南二条のビルの地下にあるイタリア料理店Cは、ご夫婦で営むアットホームなお店。料理が良い上に、イタリアで仕入れてくるグラッパは、ほかでは味わえない宝物だ。ここで食事をしていたら、女房が後ろの席を気にしている。何をはしたないマネをといさめると、見ていたのは後ろのカップルではなく壁だった。イタリア語で何やら書いてある。訳してもらうと「明日がどうなるかなんて知ったことか。楽しもう。今日の若さを」という意味。これはイタリアの小学校で教える言葉らしい。

 先日の「おじさん落ち込み」が吹っ飛んでしまった。そうだ、今日を楽しまなければ!いっぺんに元気になり、女房と夜のちまたへと繰り出した。

2006/04/20 掲載
 

酔っぱらいに国境はない

 気の合う仲間四人と「四カ国協議会」と勝手に名付けた飲み会を開いている。年齢も職業も性格も違う。共通項は飲み助というだけで利害もなく、ただ飲んで騒ぐ楽しい時間は格別だ。
 先日も狸小路の居酒屋Dで飲み、かつ食い、おだをあげ、二次会にはススキノの中国スナックSへ集団移動を決めた。が、エレベーターを降りた瞬間に嫌な予感がした。フロア中にカラオケが鳴り響いているのだ。スナックの扉を開けたとたん、音の洪水がどっと押し寄せてきた。

null画像 酔っぱらいに国境はない(なし)

 予約した手前、帰るとは言えずにカウンターに陣取ったが超満員だ。中国人、台湾人、日本人が入り交じってあふれている。会話もそれぞれの言葉で、カラオケに負けるものかと怒鳴り合っている。いったいどこの国の酒場じゃい、ここは。
 隣席のオヤジは、たまたま同席したらしい台湾人と何やら楽しそうに話をしている。ところが、われわれが作法にのっとって紹興酒で乾杯していると、そのオヤジたちも一緒に乾杯するではないか。そうなればこちらも酔っ払い度とオヤジ度では負けていない。たちまち意気投合してしまった。何を話したかはあまり覚えていないのだが、たぶんどうでもいいことをお互いわめき合っていたんだろうな。

 エライ人同士が確執を重ねている国の人々が、小さなスナックで仲良く酔っ払って肩をならべているのは最高の気分だ。エライ人もぜひ体験していただきたい。スムーズな関係を築けると思うのだが。

2006/04/06 掲載
 

ひまなバーも良いもの

 いつものバーEへ、ちょっと早めに出かけたら、珍しいことに客が誰もいない。BGMだけが流れるりんとした空気が心地良い。私はジンリッキー、女房はオリジナルカクテルを作っていただいた。
 女房がバーテンダーのS氏に「カクテルの語源って?」と聞いている。S氏いわく「アメリカでおんどりの尾で酒をステアしたのが始まりで、Cook Tail(おんどりの尾)と呼ばれるようになったそうです」と即答。むむ、さすがプロ。

null画像 ひまなバーも良いもの(なし)

 でも、もし今バースプーンの代わりにおんどりのしっぽでステアされたら嫌だなあと言うと、女房が「ブタのしっぽもちょっと・・・。」これが引き金で、言葉遊びが始まってしまった。
「ねずみのしっぽ!」「九尾のキツネ」「ポニーテールならかわいいかも」「それはしょせん馬のしっぽじゃないか」
 ということで、三人で盛り上がってしまった。それは次のお客が来るまで延々と続いたのであるが、たまにはひまなバーも良いものだ。次が来ないとなかなか帰りづらいってのもあるけれど。

 気になってネットでカクテルの由来を調べると、王女の名前、娘の名前。木の枝、軍鶏、薬用酒からなど諸説もろもろあって面白い。しかも年代も場所もまちまちだ。世界中にある何万というカクテルを、いかに飲み助たちが愛していたかがよく分かる。私の飲んだ数などは、カクテルの歴史という浜辺の、数粒の砂にすぎないのだろうな。

2006/03/23 掲載
 

30年もの 熟成やいかに

 結婚記念日に女房と食事の約束をした。当日何げなく「何年になるだろう」と聞くと、きっかり三十年だった。大変だ。記念品の用意はないし、なんとかダイヤモンドなどと言われたらとんでもないことになる。ドキドキしながら予約したレストランBに行くと、ケーキと花束をいただいた。スタッフの気づかいに感謝感謝。
 

null画像 30年もの 熟成やいかに(なし)

 ふと思いついてプレゼントにと、結婚した年、つまり三十年前のワインがあるか尋ねてみた。あるという。さすがB、ワインセラーの立派さは伊達ではない。清水の舞台かラージヒルから飛び降りたつもりで注文した。三十年に一度のぜいたくだし、ダイヤモンドよりははるかに安いしね。 
 びっくりしたのは、抜栓した時点でワインの香りと味が開いていたことだ。普通は飲む前に抜栓しておいたり、デキャンタに移したりして味が開くのを待つのだ。そうしないと飲み終わるころにやっとうまくなる、などという情けないことになる。おそらくボトル内で熟成したのだろう。開けたてにもかかわらず素晴らしい味だった。

 われわれ夫婦も三十年ものになり、どれくらい熟成したのだろうか。自分では昔と変わらない気がするが、はたから見れば五十代のひねた夫婦かな。よく飽きないねと話したら「あきらめてます」と言われたが、それも長続きの秘訣かもしれない。
 今度飲むワインは四十年ものになるのかな。熟成しすぎて腐っていた、とは言わせないぞ。

2006/03/09 掲載
 

飲みそこねたモルト

 シガーバーのHが二月いっぱいかけて改装することになった。広さが倍くらいになって、シガーのヒューミット(保管庫)も充実するようだ。ひと月も行き場所が減るのは寂しいが、改装後を楽しみに我慢、我慢。
 一月の末に改装の話をしていたら、オーナーのT氏が安い倉庫はないかと言う。ボトルとグラス類をいったん収納する必要があるが、賃貸料がけっこうかかるらしい。ちょうど弊社に空きスペースがあるので、無料で使っていただくことにした。ただしボトルの中身は減るかもしれないよと、冗談で脅かしておいた。T氏も「天使の取り分(たるのウイスキーは年に二、三%の割合で減っていき、熟成を終えるころには四分の一くらい減る)ですね」と笑っていた。

null画像 飲みそこねたモルト(なし)

 さて、搬入の前日。T氏から連絡が来て、店と同じビルの空き室に全部納めることができたから倉庫はいらないとのこと。それなら近いほうが楽だろうし良かったねーとなったけれど、本音は「天使の取り分」が私の手、いや口にかかって「悪魔の取り分」になってしまうのを恐れたせいではないかと思う。
 Hのモルトの種類はものすごく多くて貴重なものもあり、飲み助には垂ぜんものだ。私にモルトの番をさせるのは、ネコにかつお節の番をさせるより危険なことに、賢明なT氏は直前で気がついたのだろう。まことに残念な話である。

 新装のHへ行って、飲みそこねた「取り分」を飲む日が待ち遠しい。

2006/02/23 掲載
 

きれいなお姉さまより、たばこ

 昨今何かと肩身の狭いヘビースモーカーである。会社は当然禁煙であるが、喫煙ルームを設けてしのいでいる。わが家も女房によって強制的に禁煙を強いられている。
 それはそれで我慢できる。わが家の滞在時間のほとんどは睡眠時間だし、休日もだいたい出社しているので不自由はない。長時間の禁煙も苦にならに。飛行機での移動は二十四時間でも全く平気だ。もっとも搭乗する前にバーで引っかけて行くから、後は機内食と酒をいただき、寝ているわけだ。

null画像 きれいなお姉さまより、たばこ(なし)

 禁煙が許せないのは二カ所。一つはホテルの禁煙ルームだ。頼みもしないのにその部屋が与えられた場合は即、フロントに怒鳴り込むことにしている。
 もう一つはバーだ。レストランでのたばこの煙は、きれいなお姉さまのきつい香水と同様、控えるのがマナーであろう。しかし、バーでの禁煙は何とも許しがたい。

 数年前にロサンゼルスへ行った時、すでにバーは禁煙であった。バーボンソーダーを飲みながら優雅に一服というわけにはいかないのだ。吸いたくなったらカウンターから滑り降り、建物の外に出て、せかせかと一服して、またカウンターによじ登って・・・という誠に落ち着かない状況になる。以来、カリフォルニア州には一歩も踏み込まないようにしている。
 やはり美酒を楽しむには、落ち着いたバーとたばこ(葉巻も)が不可欠だ。きれいなお姉さまは不可欠ではない、と思う。

2006/02/09 掲載
 

幸せカクテルに完敗

 昨年末から、バーEのバーテンダーであるI氏の様子が妙だった。いつもにこやかな人だが、笑顔にしまりがない。年末のある日など、もうやたらうれしそう。聞くと婚約したそうで、婚約者が店に来ていたのだ。きれいな方で、これはI氏がにやけるのもムリはないと納得。
 年が明け、結婚したと聞いたので、からかうつもりで「今の気分で」とカクテルをオーダーしたら、オレンジ色のショートカクテルが出てきた。甘い中にも酸味が効いた、なかなかうまい一杯だ。名前を尋ねるとニコニコしながら「ハネムーンでございます」ときた。おいおい、いくらうれしくてもそれはないだろう。われわれ夫婦はどっちかと言えばフルムーンだぞ…。

null画像 幸せカクテルに完敗(なし)

 周りにいた常連客も悪ノリしてオーダーを始めたが「スイートハートでございます」 「ブライダルブーケで…」と、次々に幸せカクテルを繰り出されてたじたじだ。極め付きは「聞かせてよ愛の言葉を」というカクテルで全員敗退となった。
 その時、負けず嫌いな女房が「ニューリーウエッズ(新婚さん)という名前で一杯作って」と挑戦したからたまらない。出てきたカクテルは、淡いピンクから、時間がたつに連れ濃いピンクヘと変化するものだった。しかも使ったボトルにはすべてハートのラベルが…。

 星の数ほどあるカクテルが、名前や味でその時々の人の気持ちを表すことができるのは素晴らしいと思う。I氏の幸せカクテルに完敗。そして乾杯!

2006/01/26 掲載
 

ペンギンのつぶやき

 空港の時間待ちの一杯は格別だ。成田空港を利用する時に必ず立ち寄るバーのT氏が、西麻布にバーSを開店したというので寄ってみた。
ラガブーリンを頼んでカウンターでぼんやりしていたら、何やら音がする。プチプチともブツブツとも聞こえ、だんだん気になってくる。犯人は誰じゃい!? ときょろきょろすると、T氏がうれしそうに「聞こえますでしょう」と笑いかけてくる。

null画像 ペンギンのつぶやき(なし)

 犯人はグラスの中の氷であった。南極の氷だ。氷の中に空気が閉じ込められていて、何百年もたった太古の気泡がはじけているのだ。まだ公害のなかった時代の空気がプチプチと現代の夜の闇に混ぎっていく。まさにロマンではないかーと感激し、おかわりを重ねた。
 人のいないカウンターに氷の音がはじけ、音を絞ったジャズとマッチする。東京のバーは人が多くてゆっくりできないのだが、この時ばかりは心底時がたつのを堪能させてもらった。

 酔うにつれ、今度はプチプチが何やら声に聞こえてきた。酔った頭でもうろうと、伺だろうこの声は、と考えていると、頭の中でペンギンがペたペたと歩き出した。そうだ、ペンギンのつぶやきだと思いついた。地球温暖化やら大気汚染やら、迷惑この上ない現代に文句を言っているのだろうか…。
 こうなればもう立派な酩酊中年のできあがりである。勘定を済ませ、西麻布の街をペンギンよろしくヨチヨチと帰路についたのであった。

2006/01/12 掲載
 

ああ、天使のゲップ

 この時季、街角でクリスマスソングを耳にするとシャンパンを連想する。クリスマス専用の酒というわけではないのだが、いろいろ思い出があるのだ。
 子供のころはシャンメリーを飲めるのが楽しかった。昔は普段質素な分、ハレの行事には特別なご飯が出てきたものだ。甘酸っぱい思い出だが、今考えると味は決して酸っぱくはなく、ベタベタに甘かった気がする。

 

null画像 ああ、天使のゲップ(なし)

 バブルのころに、あるバーヘ行った時のこと。隣のカップルの会話が耳に飛び込んで来た。「君のためにドンピンを予約しておいたからね」
 ド、ドンピン? もしかして、ドンペリニヨンピンク? いくら日本人が簡略化が好きだといっても、そりゃないだろ。思わず横目でにらんでしまった。そんな高価なシャンパン、女房にプレゼントする勇気はないというひがみも少々あったが…。
 なんてことを思い出しながらバーで飲んでいたら、ラジオ取材のパーソナリティーが隣に腰掛けてきた。クリスマス用のシャンパンカクテルの取材とのこと。でも、シャンパンを扱うアルバイト嬢の手がおぼつかなく、抜栓したことがないという。

 これは飲み助の出番だわいとしゃしゃり出た。美人パーソナリティーと、アルバイト嬢の熱い視線の中、天使のため息のごとくスーッとガスを抜いて、と気合を込めたら、「ボンッ!」と音を立ててしまった。ため息どころか天使のゲップである。
 情けない思い出が、一個増えてしまった…。

2005/12/22 掲載
 

酔った歯科医が目覚めたら

 なくて七癖というが、酒癖ほど面白いものはない。絡み、笑い、泣きなどいろいろだが、寝癖も時々見かける。
 友人Wは酒場寝の達人だ。二次会ともなると、バーのカウンターでも小さなスツールでもすぐに器用に寝始める。たまに、きれいなお姉さんのひざまくらで熟睡していることもある。
 しかも人を呼びだしておいて、会った数分後には寝てしまうのである。ご丁寧にいびきもセットで。まことに失礼な話であるが、デジカメに収録して後ほど留飲を下げている。 

null画像 酔った歯科医が目覚めたら(なし)

 先日、南三条のバーSで飲んでいたら美女が二人入ってきた。なじみらしく親しげに話していたが、しばらくしてオーナーが紹介がてらに、彼女らの職業は何だと思うと聞いてきた。
 若くて美人、ファッションセンスも抜群である。アパレル業界かと答えたら、歯医者さんだというからびっくり。今お世話になっている歯医者さんのゴツイ顔を思い出し、あまりのギャップにうなってしまった。

 そのうち一人が寝始めた。しかもカウンターに突っ伏して気持ち良さそうに寝息まで。Wだってカウンターでは遠慮がちにほおづえの姿勢なのに。
 次の待ち合わせがあったらしく、二十分ほどしてからもう一人が彼女を起こした。すると目覚めた彼女は、よく寝たとばかりに口元をぬぐうしぐさ。見れば口元に、さらにはカウンターにもよだれの跡が。
歯医者さんだけに、よだれには慣れっこなのだろうけど…。

2005/12/08 掲載
 

酔っ払い度を測っても・・・

 雑誌を読んでいたらおもしろい商品に出合った。アルコールセンサーだ。電気製品のリモコンに似た形で、息を吹きかけるようになっている。酔いのレベルは、ほろ酔い・ご機嫌・出来上がりなど十二段階。これはぜひ買わねばと思った。
 飲酒後の運転の参考にしようというのではない。警察のお先棒を担ぐわけではないが、飲酒運転は視野が狭くなるわ、反射神経は鈍るわで危険この上ないそうである。仲間が集まってワイワイ飲む時の小道具に使うと愉快ではないかと思ったのだ。
 

null画像 酔っ払い度を測っても・・・(なし)

 「おまえは酔っ払いだ」と言えば普通は「いや酔ってない」とけんかになるが、人は数値に弱いもの。このセンサーを突き付けられると少しは「あ、そうかな」と信用するだろうという魂胆だ。ただ、おやじの酒臭い息を吹きかけた機械を皆で使うのは抵抗があるけれど。
 久々に面白いおもちゃを見つけた気分だ。忘新年会シーズンには活躍していただこうとわくわくしている。

 

 でもバーで渋くモルトなぞ飲みながら、片手でセンサーに「ハーッ」と息を吹きかけているのはまったく様にならないよな。こっそりトイレに隠れて…だったら飲まんほうが良いのではないか。
 あれこれ考えると楽しい商品ではあるが、このセンサーに「あんたは飲みすぎ。完全酔っ払い」といわれて、「じゃあこれで帰るわ」と潔く言える意志の強い人には、まったく必要のないものだろうな。

2005/11/24 掲載
 

「雲の上」の酔い心地」

 中国の田舎町に着いたのは夜十二時を過ぎてからだった。夕方離陸した飛行機は悪天候で成都空港へ引き返し、いつ飛ぶとも分からない飛行機を、待合室ですし詰めにされながら待っていた。
 当然酒類はまったくない。これでバーでもあればウイスキー片手に「いいよ。天候次第なんだもん。いくらでも待つよ」と物分かりが良くなるが、酒もない見込みも立たないでは「どうしろっちゅうんじゃ、コラッ!」てな気持ちにもなってくる。二時間ほど待たされて、二度目の正直で無事着陸したのだ。

null画像 「雲の上」の酔い心地」(なし)

 田舎の空港なので直接タラップから降りたったが、驚いた。寒い。さっきまでいた場所は三〇度だったが、距離は近いはずなのにここでは五度しかない。寒くて暗い道を一時間半かけてやっとホテルに着いた。
 疲れた体を引きずってバーヘ行くと、スタッフは「英語は通じないが、中国語は大丈夫!」
と胸を張った(当たり前だ)。つたない会話でジャック・ダニエルの水割りを頼んだが、注文したものが出そろうまでにはかなりの忍耐と気力を要した。酒飲みは酒のためにはいくらでもがまん強くなれるのだ。

 飲み始めると変な酔い加減だ。ふわふわとして、まるで雲の上にいるような頼りなさ。疲れのせいかと首をかしげながらも飲み続けて就寝したが、翌朝話を聞いてビックリした。このホテルは標高四千bにあり、昨夜は富士山頂よりも高いところで酒を飲んでいたのだった。

2005/11/10 掲載
 

緑茶割りは中国4000年の知恵!?

 中国の田舎へ向かう途中で、乗り換えのため成都に行った。待ち時間に、近くのバーでちょっと一杯やることにした。
 新しくておしゃれな店なのだが、ふと見るとワインラックの上に英語で「WIN BAR」と表示してある。ん? WINEではないのかな。それともホントに「勝利バー」なのかいな、とほくそ笑んでいると、小姐(ウエートレス)がメニューを持ってきた。

null画像 緑茶割りは中国4000年の知恵!?(なし)

 種類は少なく、ウイスキーはシーバスリーガルとジョニーウォーカーと、もう一つ聞いたこともない銘柄。その見知らぬ銘柄を水割りで頼んだが、持って来たのはストレートだった。中国ではいつもこういうトンチンカンな目にあって楽しいのだ。
 仕方がないから氷と水を頼んだ。へたに生水などを飲んだら後が怖いので、湯冷ましを頼み、持って来たグラスをつかんでビックリ。熱いっ!熱湯である。だれがお湯割りを頼んだというのだ。情けなくなったが、ここは中国とあきらめ、グラスにたっぷり氷を入れ、お湯を注いで中華風水割りを飲み始めた。

 小姐がそばから離れず、珍しそうに笑っている。熱湯を持って来たのはおまえだろうと憤慨していたら、地元の人はウイスキーを緑茶で割ると教えてくれた。悪酔いしなくて体に良いそうな。確かに理屈は分かるが、焼酎ならまだしもウイスキーは…。
 中国四千年の知恵だろうか。って、四千年前にウイスキーはなかったはずだが。

2005/10/27 掲載
 

ワイン、焼酎・・・二日酔い

 円山にある焼き鳥屋のSは、一見して焼き鳥屋とは思えないおしゃれな店だ。おやじたちだけで行くと、絶対浮くこと間違いないだろう。といって、ススキノの美女を同伴しようと考えた方は、狭いからすぐにばれるので要注意である。
 備長炭で焼き上げた焼き鳥は絶品で、日本酒、焼酎のほか、ワインやシャンパンも各種そろっていて至福の時を楽しめる。ただ、いつも込んでいて、予約しなければ席が空いていない。

null画像 ワイン、焼酎・・・二日酔い(なし)

 そのSがススキノ新宿通りの路面にBという支店を出した。今度は焼き鳥ではなく洋食屋だ。店に入ってビックリするのは総ガラス張りのワインカーブ。シャンパン、ワインが整然と並び、その数約千八百本とのこと。そんなことを聞くと、商売をしているせいか思わず総額を計算して、すごい在庫金額だなと考えてしまう。悪いクセだ。
 料理はおつまみ風からメーンディッシュまであり、おなかに合わせて注文できる。ワインは食事メニューよりはるかに分厚いワインメニューから、好みと予算に合わせて選べる。もちろんソムリエ氏に相談しても、おいしい酒にありつける。

 ソムリエ氏には悪いが、うれしいことに焼酎もある。まずシャンパンで乾杯。次にワイン、締めには焼酎というのが私の定番だが、翌日に二日酔いとなるのも定番だ。
 ちなみにSは日本語の白、Bはフランス語の白。おまけに新宿通りのビル名は英語の白と、シャレもきいているのだった。

2005/10/13 掲載
 

ヤケ食い、のちヤケ酒

 月寒にある老舗のジンギスカン屋に、バーを営むS氏、日本酒バーのH氏、シガーバーのN嬢とで出かけた。中年おやじ三人と娘の組み合わせだ。
 ここにはソムリエとワインアドバイザーがいて、酒類が充実している。まずはビールと焼酎「富の宝山」で乾杯。肉を焼きつつワインを待っていると、H氏がセラーから選んできたのは、こともあろうに時価のワインだった。怖い。でも酔っぱらいは太っ腹。抜栓して飲みあげる。 

null画像 ヤケ食い、のちヤケ酒(なし)

 と、ソムリエ氏がにこにこして酒を持ってきた。ジンギスカン専用の酒だという。一つは乙部のワイン「ミスター・ジンギスカン」。もう一つは日本清酒のワンカップ酒「じゅうじゅう」。うむむむ、何と素晴らしいネーミング。しかもなるほど、ジンギスカンのクセを落としてくれる。ジンギスカンブームもいよいよここまで来たらしい。
 騒いでいてふと気付くと、S氏が肉しか食べていない。実は野菜をいっさい受け付けないのだそうだ。からかうと、「食べられる」とカリカリにこげたもやしをいやいや食べている。

 それを見ていたN嬢、いきなり母親モードにスイッチが切り替わったらしく、S氏の面倒を見だした。要は野菜の強制を始めたのだ。われわれならケンカになるところだが、娘の強制とあってはしょうがない。ヤケになって食べてはいたが、われわれに向けた目は恨みで満ちていた。このヤケ食いの後、S氏は延々とヤケ酒を飲んだということだ。

2005/09/29 掲載
 

酒と人、そして動物

 南ハイランド地方のグレンタレット蒸留所に「タウザー」という名の猫がいた。モルトの原料の大麦を狙うネズミ駆除のために飼われていて、こうした猫をウイスキーキャットと呼んでいた。
 ちなみに誕生日はエリザベス女王と同じ四月二十一日。ギネスの記録によると、二十三年の生涯で二万八千八百九十九匹のネズミを捕ったそうだ。長寿の秘訣は毎日モルトをなめていたから…かどうかは分からない。

null画像 酒と人、そして動物(なし)

 人と動物が共存している光景はステキだ。ベトナムの食堂では親子連れの野良犬が走り回り、床のおこぼれを掃除、つまりちょうだいしていた。中国の山奥の農村では黒豚やらアヒルやらが村中の残飯整理や沼の浄化を務めていた。またロンドンでは、タクシーの助手席にガードマンよろしく犬が乗っていた。
 東京の湯島にあるエストというバーは、店の前にいつも数匹の猫がたむろしている。まるで客の品定めをしているようだ。中でも看板によじ登っているヤツは、人のことを上から偉そうにじろっと見下ろす。この審査をクリア(?)して店に入ると魅惑のカクテルにありつける。

 いっそのこと番犬ならぬ、バー犬なんてのもどうだろう。訓練をして、客がお金を持っているか、泥酔していないか、美女に悪さをしないかなどを監視していただく。明るく健全なバーのできあがりだ。そんなバーがあれば、一杯目の注文はこれで決まりだ。「ソルティードック。ワン!」

2005/09/15 掲載
 

「娘さん」だったはずが・・・

 夏になると口当たりのさわやかなカクテルが飲みたくなる。定番のミントジュレップやモヒートも良いが、何か新しいものはないかと思っていたら、カイピリーニャというカクテルがあるという。ポルトガル語で「田舎の娘さん」という意味だ。
 さっそく注文。ぶつ切りにしたライムをグラスに入れ、砂糖を加えてつぶし、クラッシュアイスを詰め、ピンガを加えてできあがり。ピンガはブラジルの酒で、サトウキビの搾り汁を発酵、蒸留させたものだ。口当たりは強いがライムの酸味と合わさって、なかなかさわやかな味に仕上がっている。夏の定番一つ追加なり。

null画像 「娘さん」だったはずが・・・(なし)

 と、悦に入ってあちらこちらのバーで頼んでいたら、あるバーで作り方が分からないという。ホイ来た。ライムはこれこれで、と得意げにレシピを披露した酔っぱらいだが、実はうろ覚えを口からでまかせで言っただけ。出てきたカイピリーニャは予想と違うものだった。
 ライムはぶつ切りではなく、さいの目切り。さらにクラッシュアイスは角氷だった。もちろんちゃんとカイピリーニャの味がしたし、おいしかったが、やはり視覚というものは恐ろしいもので、田舎の娘さんというよりは、田舎のおばちゃんのムードである。さわやかな「娘さん」気分はへなへな〜とどこかへ消えて行ってしまった。

 飲みながら、素人の酔っぱらいが軽々しくプロの仕事に口をはさむものではないと、ちょっとだけ後悔した。

2005/09/01 掲載
 

「微酔」と「泥酔」の加減

 「花は半開 酒は微酔」と書かれた額が、札幌東急インそばにあるすし屋Kに飾られている。なかなか味わいある言葉だ。
 お客さんの書だそう。さぞや酒飲みの達人なのだろうな…と思いながら杯を傾けていると、横にいた女房が何を思ったか「口は半開、酒は柁酔」と言い始めた。無粋なヤツだ。せっかくほろ酔いの花見を思い浮かべていたのに、いつものドンチャン騒ぎを思い出して、二日酔いの気分になるではないか。

 

null画像 「微酔」と「泥酔」の加減(なし)

 常飲では大変だけれど、たまに飲む昼酒はいいものだ。休日の昼下がり、天気の良い日は公園で、雨の日はテラスで好みの酒をゆっくりと飲む。これまさに「微酔」。ストレス解消にもってこいだ。ただし調子に乗ってピッチを上げるとあっという間に「泥酔」に向かってまっしぐらになる。この加減が難しい。
 欧米諸国ではランチにアルコ−ルという風景によく出くわす。一時間ほどかけてゆっくり飲んで食べて談笑して、とても楽しそうだ。午前中のパブでも、リタイアしたであろうおじいさんがビールを一杯、時間をかけて幸福そうに飲んでいる。これがご夫婦だとまことに絵になる。酒との接し方が、われわれ日本人とは一味違うようだ。楽しむための酒と、酔うための酒の違いだろうか。

 私もいずれは、パブで会った老夫婦のように女房と酒を楽しみたいものだが、「微酔」ではなく「泥酔」路線じゃ、ムリだろうな〜。

2005/08/18 掲載
 

スコットランドといえば・・・パブ

 ロンドンに行ったついでにスコットランドまで足を延ばした。スコットランドといえば、バグパイプの演奏が有名。
 「連日観光もしないで酒場に入り浸っている」と愚息にばかにされていたので、聞きに行こうかと思ったが、やはりそこは自分の興味を優先。まずはエジンバラのスコッチウイスキー・ヘリテージ・センターヘ行った。スコッチウイスキーの博物館のような所だ。

null画像 スコットランドといえば・・・パブ(なし)

 販売もしており、その数二百五十種以上。中には一本百二十万円などという代物もあった。買い占めたくなるようなものもあったが、重くて持てないし財布も持たない、と我慢。
 たくさんの酒を「見ただけ」の後は、さっそくパブヘ繰り出した。驚いたのはロンドンのパブよりモルトの種類が多いことだ。しかも同じ銘柄でも、ポート、マデラ、バーガンディ、シェリーなどの空き樽で熟成したモルトが用意されている。

 夕刻までパブで過ごし、さて食事。でも事前調査などしていないのでどこに入ってよいのか分からない。すると愚息が、レストランの従業員にどのレストランがおいしいのかを聞いている。失礼なやつだと思ったが、ここではなくて、斜め向かいの店に行けという返事が返ってきておかしかった。
 スコットランド料理を堪能し、またパブヘと歩いていたら、十時半なのに明るかった。緯度が高いのかな、などと考えていてふと思った。今日も観光はしなかったな…。

2005/08/04 掲載
 

日本人に見えない!?

 海外といえば中国やタイヘ行くことが多く、久しぶりに英国へ行って民族の多様さにビックリした。空港では東アジア、中近東、アフリカ系などさまざまな人たちが歩いている。過去の植民地政策の結果なのだろう。最近は東欧からの移民も多く、米国に負けない「人種のるつぼ」と化しているようだ。
 ロンドンの中華街で飲茶をしようとレストランヘ入ると、そこはもう中国だ。注文も会話も中国語が飛び交う。昼時でさすがに乾杯をしている人はいなかったが、香港か上海にでもいるような錯覚をする。

null画像 日本人に見えない!?(なし)

 宿泊したホテルのバーテンダーは、移民だというポーランド人女性二人。私との会話は英語だが、カウンターの中ではポーランド語。全く理解できません。ラガブーリンをダブルで頼むと、ダブルの水割りを二杯も出してくれた。
 だまって二杯目を飲んでいたら、他の客が彼女たちに、クラシックのBGMは眠くなるから変えてくれと注文を付け、私に同意を求めてきた。「そう思うだろ、中国かアジアの人」と。別のパブではサンキューではなくて「謝謝」と言われた。日本人に見えないのか? 

 今回一番見かけなかったのは日本人だ。フォートナム&メイソンと、帰りの空港にはさすがにたくさんいたけれど、他は全くといって良いほど会わなかった。と愚息に言うと「当たり前だ。昼間から観光もしないでパブにもぐり込んでいる日本人なんていやしない」だそうだ。

2005/07/21 掲載
 

うまいビールもほどほどに

 愚息が大学を卒業するので、学生生活を送った街を見ようと夫婦でロンドンヘ行った。迎えが遅れるというのをこれ幸いに、空港のパブヘ飛び込み本場のギネスを注文する。うまい。味が全然違うではないか。
 ホテルに着いた後も、すぐにパブを目指して繰り出した。「スワン」という百年以上は営業していそうな趣の店でまたまたビール。学生時代にバカ飲みしてつぶれて以来、ビールは苦手と思ってきたが何のその、いくらでも飲めてしまう。

null画像 うまいビールもほどほどに(なし)

 英国名物のフィッシュ&チップスとソーセージ&マッシュポテトにもぴったりの相性だ。英国においしいものはないと公言している人がいるけれど(実は私も…)、訂正します。とってもおいしゅうございます。食後はホテルのバーで一杯。さすがモルトの本場、大好きなラガブーリンがあったので感激だ。
 そんなこんなでビール腹を抱えて寝たが、翌朝は時差ボケも二日酔いもなく、いつもより早く目が覚める始末。まるで修学旅行生だ。散歩がてら昨夜のパブをのぞくと、十時半から営業しているではないか。旅空の下、調子に乗って女房と朝食兼朝酒を決め込むことにした。モーニングセットのハム&エッグはきっとビールに素晴らしく合うはずなのである。

 運ばれてきたビールで乾杯。でも二人ともあまり進みがよくない。やがて女房が一言「飽きた…」。同感。バカ飲みしすぎだ。卒業後三十年を経てなお学習していないのを痛感した。

2005/07/07 掲載
 

ジンギスカンとワインの誘惑

 最近東京でジンギスカンがブームだという。ジンギスカンキャラメルなるものまで登場し、試食したが確かにそんな風味がする。札幌でも諸氏がこだわりを持っていて、食べるならDだ、いやYだと諸説紛々である。
 ブームに乗せられた訳ではないが、先日、友人夫妻と月寒にあるツキサップじんぎすかんクラブに行ってきた。北海道のジンギスカン発祥の地だそうで、知る人ぞ知る店だ。肉も秘伝のたれもうまくて、野外でも食することができる。休日の夕方、暮れなずむ空の下での酒と食事はまさに至福のひとときだ。

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 昔は残念なことに酒の種類が少なかった。で、子供の飲み物のふりをして魔法瓶に冷たい白ワインを入れて行ったりしていた(ゴメンナサイ。十年以上前だから時効にしてください)。
 ところが専務さんがソムリエの資格を取ってからは酒事情が一変した。特にワインがすごい。店内にでっかいワインセラーがどーんと鎮座していて、お手軽なワインから目を見張るようなものまでそろっている。友人は勝手にセラーを開けてワインを吟味していた。

 札幌にジンギスカン店は多々あるが、ソムリエのいるお店はここぐらいであろう。食後に専務さんからすすめてもらったグラッパの素晴らしかったこと。当然メートルは上がっていく。
 専務さんが笑顔で「昼間からおいしいワインを飲めるのはうちくらいでしょう」とおっしゃっていた。そんな誘惑はしないでもらいたいものだ。

2005/06/23 掲載
 

立ち飲みは楽しいが・・・

 最近、立ち飲みの店が増えてきたような気がする。といっても昔のように酒屋の店先でオヤジたちがコップ酒をあおるという風情ではなく、女性が気軽に入れるきれいでオシャレな店だ。一度すすきのでワイン専門の立ち飲み屋をのぞいたら女性でびっしり。気後れして入れなかったことがある。
 昔の立ち飲みは店が薄暗く、酒と乾き物のにおいが混ざった独特な雰囲気があり、子ども心に飲んべえの巣くつという、訳のわからない恐怖心を抱いたものだ。今ならそんな場所で飲むのもオツだろうが、残念ながらお目にかかったことがない。

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 時計台近くのビルの二階には、Gというイタリアの酒の名がついた立ち飲みがある。長いカウンターにテーブル席も若干あり、このテーブル席のみチャージがかかる。もちろん私はノーチャージのカウンターに陣取った。日本酒や焼酎が充実していて、おでん、くし焼きなどもある。仕事帰りに一杯ひっかけるのにぴったりだった。
 そういえは、欧米人は立ち飲みが大好きだ。パブはもちろん、バーでもスツールがあるのにお構いなしで立っている。しかも大声で話し、笑い、ついでに人の前にあるスナックの皿に平気で手を突っ込んでくる。

 ま、それも楽しそうではあるが、私は到底マネできない。別に礼儀正しいわけではない。昔ぎっくり腰で入院して以来、三十分以上立っているとつらいのだ。三十分以内に飲んで帰れば健康的かもしれないが…。

2005/06/09 掲載
 

どうしてマドラー?

 あちこちのバーによく出かけるが、大きく分けるとホテルバーと街のバーの二タイプがあると思う。バーテンダーも雰囲気が何かしら異なる。
 うまく言えないが、ホテルのほうが邪魔しないようにひっそりとたたずんでいるイメージ。聞かれた時には答えるが、余分なことは言わない。対して街のバーテンダーは煩わしいということではなく、何かしら「華」を感じさせる。

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 酒を飲み始めてから三十年近くたつが、遅まきながら最近もう一つ気付いたことがある。東京の帝国ホテルのカウンターでラガブリンの水割りを注文した時だ。何げなく作るのを見ていたら、ステアするのにバースプーンではなくプラスチックのマドラーを使っていた。街のバーでは知る限りバースプーンを使用している。札幌へ戻ってグランドホテルのバーヘ行ったら、やはりマドラーだった。
 変な好奇心がむくむく頭をもたげ、なじみの街のバーテンダーに理由を聞いてみたが、知らないという。不明ほど気持ちの悪いことはない。頭の中でぐずぐずとくすぶっていたが、やっと静岡のホテルバーテンダーから答えらしいものを聞くことができた。いわく、推測だがマドラーは一人のお客さま専用で、バースプーンのようにほかの客と兼用はしない、とのこと。

 なるほどさすがホテルだと感心した。でもバースプーンでも良いではないか。バースプーンでステアする姿は、バーテンダーの魅力のひとつなのだから。

2005/05/26 掲載
 

プロの真剣さに引き換え…

 プロのバーテンダーが参加する、PBO(プロフェッショナル・バーテンダーズ機構)の研修に潜り込んだ。モルトの勉強、しかも試飲ができると聞いたからだ。私も一回講師を務めさせていただいたことがあるのだが、皆さんの真摯なまなざしと熱意に押され、大汗をかいた記憶がある。
 エレベーターを降りると、いきなりウイスキーの香りが漂って来た。案内板などいらない。香りをたどると会場に着いた。テーブルにはサントリーのモルト七種、グレーン三種、「響」が二種置いてある。一瞬のどが鳴ったが、まだ午後二時である。プロの皆さんの前でみっともないまねはできない。 

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 ブレンダーの説明から研修開始となったが、知っているつもりの自分の浅学さを思い知らされた。これからはバーで知ったかぶりはやめるべきだな…。教えの通りにおいをかいだり、色を見たりしてから、いよいよ味見。これはお茶の試飲も同じ。
 と、ここまでは良かったのだが、いざ飲み始めたら、さっきまでのまじめな心はどっかに飛んでいった。本当はお茶やワインと同じように口に含んでから吐き出すのだが、そんなもったいないことできるかい、と片っ端から試飲(鯨飲?)。ほかのバーテンダーはあくまで冷静にブレンド具合、度数や濃淡を試している。

 やはり素人は暗くなってから、止まり木で勝手なことを言って飲むのが似合うようだ。

2005/05/12 掲載
 

春の九州で美味、美酒を満喫

 桜の季節となると、皆は花見としゃれ込むが、われわれお茶屋は新茶が気になって花見どころではない。今年はお茶の芽吹きも遅いとのことで心配になり、鹿児島へ出かけた。
 鹿児島は日本で一番早く新茶の採れる地区だ。大産地、知覧の茶畑へ行ったら、なるほどまだ芽が小さい。例年から見ると一週間ほど遅れているようだ。しかしなんとか売り出しには間に合いそうで一安心。

null画像 春の九州で美味、美酒を満喫(なし)

 安心ついでに夜は「花より団子」と繰り出した。名産の薩摩黒豚と薩摩牛のしゃぶしゃぶ、ご当地の芋焼酎「唐仁原」で乾杯。聞くとこの黒豚はサツマイモだけで飼育するそうだ。イタリアの有名なイベリコ豚でさえドングリしか食べられないというのに生意気。でもうまい!
 満腹の後は繁華街である天文館へ直行した。スティンガーというバーでスティンガーというカクテルを作ってもらう。店の名前にするだけあってさすがにおいしい。ほろ酔いで調子に乗って焼酎バーへ出向いたら臨時休業。あ、そう、もう寝なさいということか。で帰宿。

 翌日は北九州のお茶の打ち合わせで博多に移動。夕食に名物のイソギンチャク料理を食してから、札幌で聞いていたバー「オスカー」へ。すてきなバーだ。マスターは銀座「テンダー」で修業したそうで、なるほどシェイキングは同店の上田マスターのスタイルだ。大満足したが、酔ったせいか近いはずの宿を見失い、タクシーに連れて帰ってもらったのは不覚であった。

2005/04/28 掲載
 

「こぶ」締めで襲名披露

 林屋こぶ平改め、九代目林屋正蔵の襲名披露に出席した。師匠は先代から続く、弊社のCMの顔なのである。
 梨園、芸能界、政治家ほか総勢八百五十人がきら星のごとく居並ぶ中、披露宴は始まった。祝辞のあと、松竹梅の大だるの鏡抜き、マムのシャンパンで乾杯となったが、はなし家の世界とは面白いもので、その後すぐに中締めを始めるではないか。
 なんでもはなし家はせっかちな人が多いので全員が顔をそろえているのは最初の乾杯の時くらいらしい。後はご自由に、というわけだ。確かに席を立つ方がいたけれど、ほとんどが政治家だったのはどうしたことか。

null画像 「こぶ」締めで襲名披露(なし)

 主な料理はフランス料理だったが、途中ですしが出てきたのは意外だった。とろ、赤身、づけ、白身二貫。この白身が二貫とも「こぶ」締めだったのには納得。さすがこぶ平。ワサビもしゃれも効いている。
 宴の最中のスピーチは普通ならうんざりするのだが、はなし家や芸能人だけあってしゃべるのが商売。面白くて退屈しない。
 

 おしまいに家族からのサプライズプレゼントがあった。ジャズ評論家のこぶ平には最高のプレゼントで、山下洋介のピアノとジャズバイオリニスト寺井尚子、バックは国立音大のビックバンドというライブだ。まさか襲名披露でライブが聴けるとは思わなかった。
 こぶ平の謝辞のあと大締めとなり、感動を胸に抱いたまま銀座にさまよい出た。この感動をさかなにもう一杯やろう。

2005/04/14 掲載
 

空白の30分を返して!

 アジアを旅していると、さまざまな人と出会い、理不尽な目に合うこともしばしば。しれも旅の魅力のひとつである。名所旧跡巡りもよいが、人間模様を見るのはもっと面白い。
 バンコクのホテルのバーテンダーはすべて若い女性。冷房の効いたカウンターでニッコリほほ笑まれ「サワディカー(こんにちは)」とワイ(合掌)でもされたら、暑さも疲れもみじんもなく吹き飛ぶというものだ。

null画像 空白の30分を返して!(なし)

 ある日カウンターでぼんやりしていると、バーテンダーがシンハービールの栓を抜いていた。ところがオーダー間違いだったらしい。どうするか見ていたら、彼女は涼しい顔で開いた栓をポンと閉め直して冷蔵庫に戻してしまった。気が抜けるだろう気になるのは私だけか?
 最後の夜に寝酒でも、とそのバーへ行った。閉店まで一時間ありちょうどいい。顔なじみになったバーテンダーがいつも飲んでいるワイルドターキを出してきたのはよいが、ほとんど空だ。笑顔で「五分待ってね」と奥へ消えて行った。

 在庫を取りに行ったのだろうと思っていたが、十分たっても二十分たっても帰ってこない。三十分を過ぎてようやく戻って来た。「遅くなってごめんなさい」と彼女。そして「ボトルでお買い上げですか」ときた。今まで毎日グラスで注文していたじゃないか・・・。
 ともあれ一杯いただこうと注文したら、「これでラストオーダーです」。ぎゃふん。空白の三十分を返してくれ。

2005/03/31 掲載
 

ワインオープナーは男?女?

 札幌の南二条通りに面したビルの地下にレストラン&バーRという店がある。目玉は厚岸直送のカキ。東京で修業したオーナーシェフが楽しませてくれる料理もさることながら、彼はワインの見識も高く、料理に合わせてチョイスされるワインは見事なものだ。
 先日、女房と食事に行ってカウンターに座ったら、目の前の壁に変わったデザインのワインオープナーが飾ってあった。前から目に入っていて、漠然と弓と矢のデザインではないかと思っていたが、女房が「これって人の脚じゃない?」言い始めた。

null画像 ワインオープナーは男?女?(なし)

 普通のT字形のオープナーなのだが、握る柄のデザインが凝っている。オーナーの奥さまに頼んで見せてもらうとなるほど脚だ。タイツらしいものとロングソックス、靴まで履いていて、ご丁寧に両脚が閉じたり開いたりする作りだ。
 女房−これは女性の脚だよね。太ももの形がそう。
 愚生−いや男だろう。タイツは三銃士だってはいていたし、遊び心で男を表したデザインに違いない。
 女房−このふっくらとした太ももは絶対に女性です。
 愚生(負けず嫌い)−酒の飲みすぎで運動不足の男がモデルなんだろう。

 ばかな会話を続ける夫婦の横で奥さまはニコニコしていたけれど、多分あきれていただろう。でもこのオープナー、果たして女か男か、ご存じの方はいないだろうか。

2005/03/17 掲載
 

バーの雰囲気を変える彼女

 バーの看板娘が辞めてから一カ月が過ぎ、新人アルバイトが頑張っているものの、まだぎこちなく、寂しく、なんとなくちぐはぐな気分が続いていた。
 オーナーは連日深夜までぶっ通しで働いており、目に見えて疲労がたまっている様子。「雪がとけても好きなゴルフに行けないね」などと軽口をたたくのも気の毒でできないくらいだ。

null画像 バーの雰囲気を変える彼女(なし)

 そんなある日、携帯に着信があった。発信人は辞めた看板娘。何の用だと思ったら、辞めた店にいると言う。行ってみると、客席にすまして座っている。退屈して飲みに来たのかとたずねると、またここで働くのだとか。
 一カ月前の送別会やらなんやらの騒動はいったい何だったのだ。あまりにもあっけらかんとした様子に、いつ気が変わって「やっぱりやめた」と言い出すかわからないぞとチラリと思う。でもすっかりその気になっている出戻り娘は早くも店の常連客の間をぬって、にぎやかにあいさつをしている。

 あっという間に一カ月前の華やかさが戻ってきた。店ごとの雰囲気を楽しみに、いろいろなバーに出没しているのだが、バーの雰囲気はスタッフの個性も大きなポイントになっているとつくづく思い知らされた。彼女一人でここまで変わるのも面白い。
 ふと前を見ると疲れているはずのオーナーも元気になっている。私もつられてすっかり楽しくなった。これもバーの魅力のひとつだ。

2005/03/03 掲載
 

「もろはく」を楽しむ

 「もろはく」を広辞苑で調べてみると、「掛米と麹の両方に精白米を用いて醸した酒。江戸時代は上質の酒の総称」とあった。これと同じ名を持つ日本酒バーが札幌東急インのそばにある。
 カウンター正面の冷蔵庫には私の知らない日本酒がずらりと並び、さぁどうだ、とばかりに魅力を放っている。その隣にはたくさんの焼酎が、こっちもおいしいよ、と手招きしている。バカラなど美しいグラスで出される酒は、まるでドレスをまとった美女のよう。どれも素晴らしく、酒のミスコンテストにでも紛れ込んだ気分である。

null画像 「もろはく」を楽しむ(なし)

 バーなので食事の種類はそんなにないが、メニューに「肴」のページがある。紅豆腐、シシャモ薫製、ツブ薫製、ホタルイカ一夜干しなどなど、酒がいくらでも飲めそうな品々が厳選されている。変わり種ではピザや豆もちなどがあるが、これもけっこう酒に合う。
 店では定期的に「もろはく会」を開催。利き酒やらさまざまなイベントに日本酒ファンはご満悦となる。とはいっても、中年男の酒オタクがとぐろを巻いているような店ではない。若い女性も一人で来て、涼やかに飲んでいたりする、しゃれた雰囲気のバーだ。

 遅くまで営業しているが、私は早い時間に行って、いかついオーナーとの会話を楽しむことに決めている。なぜなら酔っぱらってから行くと酒の味が分からないし、調子にのって飲みすぎるのである。

2005/02/17 掲載
 

去っていった2人の看板娘

 バーで楽しみのひとつにバーテンダーとの会話がある。別に気の利いた話でなくても、ひまつぶしのような話でも、楽しい時間を過ごせる。ましてやバーテンダーがかわいいお嬢さんだと、話すほうの力も入ろうというものだ。
 最近になってなじみのバーテンダー嬢が二人去っていった。二人とも看板娘だったので、やはり寂しいものがある。

null画像 去っていった2人の看板娘(なし)

 W店のバーテンダーは一年もいなかったが、入った時から存在感があった。とにかくよく笑ってしゃべる明るい娘で、彼女がいるとバーがうるさくなる。バーという場がこんなにうるさくて良いのかと思ったほどだ。
 H店のバーテンダーは三年ほどいただろうか。初めはポッと出の田舎娘(失礼!)に見えて、何カ月もつだろうか、などと心配したが杞憂であった。カクテルレシピを覚え、シェーカーの振り方も堂に入ってきて、なにより表情に磨きがかかって美人になった。

 二軒ともかわいそうなのは残されたマスターであろう。仕事を教えてやっとこれから楽ができるなと思った矢先である。でも世の中そう甘くはない。経営者は(私も含めて)働かなければならないのだ。
 二人がいなくなってバーに行かなくなったかというと、そうではない。ほかに女性バーテンダーのいる店を探したりもせず、相変わらず同じバーに行き、ひげ面のマスターと面を突き合わせながら、あの娘は良かったな〜とため息をついている。

2005/02/03 掲載
 

寂しいシングルベル

 息子が留学先のロンドンから帰省して、今年の正月は久しぶりに一家だんらんとあいなった。が、そのほんの数日前の十二月二十四日、私はロンリークリスマスだったのである。
 カーラジオから山下達郎のクリスマスソングが聞こえてくる。私にとっては胸が高鳴る名曲だ。頭の中にメロディーを響かせながら街に出ると、地下街がカップルでごった返している。おじさんのひがみで見るせいか、邪魔くさくて歩きにくい。

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 ホテルのバーのスツールによじ登り、さて、と見回すと見知った顔がない。世のおやじどもも飲み助も、今日ばかりは誰かと一緒に過ごしているということか。かく言う私は女房に「約束があるから」あっさり振られて一人きりだ。
 ま、キリスト教じゃないんだからいーもんね。と、なじみのバーに移動した。さぞカップルでいっぱいだろうと思っていたらビックリした。先客はたったの二人。しかもカップルじゃなく、常連のカニ屋のKさんとフリー編集者のCちゃんだ。

 二人ともだんな持ち。さらに女房に振られた私が加わったものだから、これがホントのシングルベルか、何とも妙なクリスマスイブになってしまった。
 かわいそうに思ったのか、オーナーが特別のカクテルを三人にプレゼントしてくれた。やっとわれわれにもサンタがやってきたのだ。きれいなカクテルを一口飲んだら、頭の中にまた山下達郎のあの局が響き渡った。

2005/01/20 掲載
 

街により趣変わるバー

 所変われば品変わり、バーもその街によって趣が変わる。
 京都・先斗町のバーS。狭い階段を上がった店内はほの暗く、バックバー(酒棚)は障子の後ろという和のムード。さすが京都、とうなってしまった。ただし階段が急なので、飲みすぎると転げ落ちてしまいそうだ。
 同じく木屋町のKは広いバーで、十人掛けのカウンター三本のほかテーブル席があり、トイレも二ヵ所となかなかにぎやか。バーテンダーの対応も見事で、たった二回目なのに好みの酒を覚えていてくれた。満席なのもうなずける。女性客が多いのも魅力のうちだ(別に変な気はありません。念のため)。

null画像 街により趣変わるバー(なし)

 大阪・曽根崎新地のKは、バーテンダーのきびきびとした動きが素晴らしい。試しにショートカクテルを頼んだらみごとなシェーカーの振り方だった。
 大阪で一番感動したのはザ・リッツ・カールトンのバーだ。スタッフ全員が、客の満足いくよう気を配っている。こちらからおかわりを要求することは一度もなく、十分堪能させていただいた。十二時閉店なのに、一時半まで粘っていても優しく心のこもった対応だった。ごめんなさい・・・。

 先日、先斗町で飛び込んだGのマスターは、しゃなりとしたしぐさがとても色っぽい。軽く飲んで出ようとしたら、同行の友人がぐっすり寝込んでいる。で、結局長居してしまったが、友人の無心な寝顔をマスターが優しいまなざしで見守っていた。置いて帰ればよかったか?

2005/01/06 掲載
 

バー探検はやめられない

バーの扉は重厚な木の扉というイメージが強い。窓もなく、どんな店かも分からず、いつもどきどきしながら扉を開けたものだ。この第一歩はバー巡りの楽しみのひとつだ。
 最近は少しずつ変わってきたように思う。外からバーの様子がうかがえる店が増えた。特に一階の路面店には窓があり、どんなバーテンダーなのか、客の入りはどうかなど非常に分かりやすい。丁寧にプライスの看板も出ていて、これなら初めての人でも安心して入っていける。そういう店の扉は近代的だ。

null画像 バー探検はやめられない(なし)

エレベーターを降りたら、いきなりバーという店もある。それはそれで、その階に止まった瞬間、ただのエレベーターの扉がその店固有の扉に感じられるから不思議なものだ。
 なぜか、入り口が分からないバーもある。札幌東急インの北西、桂和ビルの最上階にあるHだが、エレベーターを降りても扉らしいものがなく、戸惑うことは明白だ。分からずに帰ってしまった人もいるくらいだ。

まさか客に来るなという訳ではなかろうが、忍者屋敷のように壁を押してみるといきなり開く。が、ようやっと扉を見つけても、今度は真っ暗な廊下が続く。酔っ払っていたらまずたどり着けない。まったくもって面倒な…いや、凝ったバーだ。
 でも苦労の甲斐はあるもので、たどり着いたカウンターでは豊富なシャンパンやワイン、
そしてすてきなマスターが手ぐすね引いて待っていた。これだからバー探検はやめられない。

2004/12/16 掲載
 

「偶然の出会い」もほどほどに

東京での仕事を終え、やれやれと丸の内にあるバーに行った。有名なクリスタルグラスメーカーの「バカラ」が経営しているバーで、ほの暗く、長いカウンターの奥にはクリスタルのシャンデリアが燦然と輝いている。まだ時間が早いので、先客が二人いるだけだ。
 いす一つ離れた席に着いたところ、先客から声を掛けられた。丸の内に知人などいないぞといぶかりながら見ると、なんと札幌のM社長だった。もうひと方は、一度お会いしたかった有名社長だ。

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なんという偶然。丸の内、銀座にバーは無数にあるし、一年は三百六十六日(今年はうるう年)だし、バーの営業時間はほんの十二時間と考えたら、こんなのゼロに近い確率だ。何で札幌では会わないのに、ここではち合わせするのだと騒いでいると、バーテンダー氏が「実は私も札幌出身でして」ときた。こうなってはただあきれるだけだ。
一瞬、まさかこの後偶然、女房や知り合いの女性が登場したらどうなるんだ? と身震いしたのには訳がある。

このバーで使われるグラスは、当然すべてバカラである。飲んでいるグラスが気に入ったら、すぐにショップから持ってきてラッピングしてくれるので、会計は確実に一ケタ増える。連れの女性が「これ好き」などとつぶやいた時の恐怖は筆舌に尽くしがたいものがある。
 偶然の神様に出会いを感謝しつつ、今日はこれ以上結構ですと申し上げた。

2004/12/02 掲載
 

言葉の洪水の中 一人寂しく

久しぶりに訪れた中国・広州のバーにて。日本人とは見えないのか、オーダーやら何やらいろいろ話しかけてくるがよく分からない。上海では少し理解できたのだが、広州ではチンプンカンプンだ。で、何語で話しているのだと聞くと、普通語(標準語)だと言う。冗談じゃないと思ったときに気がついた。なまりが強いのだ。広東なまりの普通語だ。
 二十人は座れるだろうカウンターの中には十人ほどの男女バーテンダーがいて、思い思いにしゃべっている。さらにアメリカ人とおぼしき客があふれんばかりに群がり、これまた負けじと大声だ。

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普通バーと言えば静寂な空間にささやかな話し声。大きな音といえばシェーカーを振る音くらいを連想するが、ここのバーといえば言葉の洪水だ。大声の英語と広東なまりでガーガーうるさくて、まるでアヒル小屋で酒を飲んでいるようだ。
 アヒル小屋でもいいやとあきらめてバーボンソーダを頼むと、女性スタッフが若いバーテンダーに指図している。なんか様子が変だ。これは危ないと監視していると、案の定コーラを入れようとしている。直前に制止してバーボンコーラを飲まされるのは避けたが、女性はケラケラ笑っている。いじめか冗談か知らないが、客の飲み物で遊ぶのは勘弁していただきたい。

喧騒の中で一人飲むのも寂しいものだなと、なぜか急に人恋しくなってきたが、周りにはアヒルたちしかいなかった…。

2004/11/18 掲載
 

酒通じ時を共有する喜び

 知る人ぞ知る「狸小路市場」。入り口は小さく分かりづらいが、面白い場所だ。新鮮な魚や野菜が手に入るのはもちろんだが、この市場の魅力は他にもある。数軒のおいしい飲食店が入っていることだ。
 中でもDという店は、味といい鮮度といい申し分のない店だ。なにしろ市場の中だ。オーナーとスタッフ全員、チャキチャキの粋な女性たちで、腕も確か。気取らない料理が体に優しく、あまり量を食べない私でもここでは食べ過ぎてしまうほどだ。飲み物もただの飯屋とはちょっと違う。ビールをはじめ、豊富な日本酒や焼酎、何とシャンパンまでそろっている。 

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 客は常連さんが多く、皆でわいわい楽しんでいる。一人で行っても退屈しないし、本当に居心地の良い場所だ。
 酒場の好きなところは、見知らぬ人と仲良くなれることだ。会った瞬間から話が弾む人もいれば、普段見知っているのに話したことのない人と隣り合わせて盛り上がることもある。それぞれが毎夜自分の行きたい場所に行き、偶然知り合って、約束もなく別れてまた再会する。それが同じ店であっても、別の店であっても良い。ひとときの時間を共有する酒場では、だれも背中に肩書などは背負っていない。本人以外の要素は何もない、ただ酒が介在する空間だ。至福の時だ。

 Dもそんな雰囲気の好きな店なのだ。昼から営業していて、昼間から酒が飲めるからでは決してない。念のため…。

2004/11/04 掲載
 

気分良く乗りたいタクシー

 家が比較的ススキノに近いので、食事をした後はタクシーで帰ることが多くなる。そうなるとひいきの会社もできてきて、無意識にその会社の車を探す。
 ある日いい気分で帰ろうとタクシーに乗って行き先を告げたら、運転手さんの機嫌がとたんに悪くなった。うんもスンも返事がない。せっかくの楽しい気分もどこかに吹っ飛んでしまった。

null画像 気分良く乗りたいタクシー(なし)

 近いといっても基本料金よりはもっとかかる。運転手さんにしたらずっと待っていてこんな距離と思ったに違いないが、それでも気持ち良く乗せてくれる運転手さんもたくさんいる。
 ススキノはサービス産業の集積体だと思っている。居酒屋、スナック、クラブなど、いろいろなお店がサービスを提供している。そのサービスが楽しいから皆ススキノに行ってお金を払う。でなけれは、自宅で飲食すれば原価で済むのだ。古女房の顔を見ながら、少なくともススキノの倍は飲み食いできる。

 夜のタクシーもサービス産業の一部ではないだろうか。おいしいものを食べて飲んで酔っ払って、幸せな気持ちになって帰宅する。ススキノフルコースの最後を飾るサービスだ。寝ちゃう人も、からむ酔っ払いもいるだろうが、安全に家まで送り届けてくれる、ありがたいサービスだ。何より楽しいまま家に着いたら、ついつい「お釣りはとっといて」という気分になろうというものだ。
 その日のお釣りは、断固として全額受け取ったのであった。

2004/10/21 掲載
 

「仙台」を見ると思わず・・・ 

 仙台に出張へ行った時、仕事も終わり、夕食でもとあいなった。仙台の友人Kとまずは国分町の居酒屋へ。おいしい家庭料理に舌鼓を打ったが、ふと見るとウイスキーの品ぞろえが珍しい。普通こういう店では国産が多いのだが、なんとグレンモーレンジという英ハイランド地方のシングルモルトで、なかなかうまい酒が置いてある。
 Kの会社はこの町と同じ名前で、食品や洒の最大手だ。ここへ連れて来た理由は、料理がうまいのはもちろんだが、置いてある酒がすべて会社で扱っているものだったのだ。結果、グレンモーレンジを飲みながらポテトサラダやコロッケをいただくという非常に面白い食事をさせてもらった。

null画像 「仙台」を見ると思わず・・・ (なし)

 そういえば昔からKはグレンモーレンジにこだわっていて、それじゃないとすぐ不機嫌になる。以前私の行きつけのバーで、私のキープボトルを飲みながら怒っていたことがあったが、理由はグレンモーレンジじゃないということだった。しかし、その時私がキープしていたのはまさにそのグレンモーレンジだったのだ。ボトルを見せると君子豹変して、うまいウイスキーだ、などとほざいていたが後の祭りだ。きっと味が分からないに違いないと疑っている。

 

 さて、その後何軒か行ったのだが、ご想像の通り酒はグレンモーレンジオンリーだった。で、今も仙台と書いていたら条件反射でグレンモーレンジのゲップが出てくる。けぷっ!

2004/10/07 掲載
 

酔っ払いの夜は更けて

 十周年を迎えたドゥエルミタアヂュで、いつものように常連の飲み助たちが騒いでいる。酔っているので会話には何の脈絡もないが、それでも時は過ぎて行く。オーナーもニコニコしながらそれとなく参加してきて、とても楽しい夜が更けていく。
 誰かがボンベイサファイアジンでマティーニを作ってもらったのを見た一人が、いきなり「飲んべえサファイア!」とダジャレを飛ばした。さらにビーフィータージンはなぜビーフなのか、チキンやポークじゃだめなのかなどと、訳の分からない言いがかりをつけている。 

null画像 酔っ払いの夜は更けて(なし)

 なるほどBEEF EATERだから「牛食い」だ。調べたところ、図柄の衛兵は「ヨーマン・ウォーダー」と呼ばれるロンドン塔の護衛宮で、別名ビーフィーター。牛肉を支給されていたからだという。
 気が付くと飲み助たちはもう別の話題に入っていて、今度はシェーカーを振るのが得意だけに、女性(あるいは男性)をふるのも得意だろうとバーテンダーをからかっている。後で仕返しカクテル作られても知らないぞ、と思っていると別の常連さんが粋な歌を教えてくれた。
 

 「ふって悪いは無駄な○○、ふらなきゃ食えないバーテンダー」。都々逸か何か知らないが粋なものだ。ちなみに○○は危ないので伏せ字ですが、何が入るかはご想像にお任せします。
 こうして、街のけん騒をよそに酔っ払いたちの時間は静かに?更けてゆくのだった。

2004/09/22 掲載
 

思わず対抗したくなる

 子供のころ、何てことないことで競ったことがおありだと思う。高い木に登れるか、高い所から飛び降りられるか、花火を爆発寸前まで持っていられるか、ヘビをつかめるか、などなど。今思うと本当にどうでもいいことに、けっこう危険を冒していたものだ。もっとも、今はこんなばかなことをする子供はいないだろうが。
 学生のころにもその癖は抜けず、ビール大ジョッキを何秒で飲めるか、一時間で何杯飲めるかと、ガキのような飲み方をしたことがある。バカ飲みのおかげでビールはいまだに苦手だ。

null画像 思わず対抗したくなる(なし)

 社会人になってもその癖はなくなっていなかった。さすがに最近はやらないが、運転中に他の車に抜かれると思わずアクセルを踏む足に力が入るのは、三つ子の魂百までと言われてもしょうがないだろう。
 酒も学生時代のようにバカ飲みはしないが、他人が強いカクテルを飲んでいると思わず対抗したくなる。

 マティーニに凝っていた時期がある。普通のマティーニでは飽き足りなくなって、どんどんドライになっていくのだが、横で自分より強いのを飲んでいる客を見ると、もうたまらない。一人で勝手に対抗心を燃やし、バーテンダー氏にドライドライとせかしてしまうのだ。
 揚げ句の果てにせっかくのマティーニがジンストレートと化し、味を楽しんでいたはずの紳士は三つ子の魂どころか、精神年齢三歳のただの酔っぱらいオヤジと化してしまうのだった。

2004/09/09 掲載
 

からかいもほどほどに

 とあるバーで、バーテンダーをからかっていた。若いのになかなかしっかりしているのだが、お酒のメーカーの試飲会で肝心の試飲をあまりせずに、座り込んでビールをあおっていたというので、その話をつまみに酒を飲んでいたのだ。横にいた女房もここぞとばかり参戦してからかっている。彼にも反論はあっただろうが、そこは客と店の力関係だ。ぐっとこらえて笑顔で対応してくれた。

null画像 からかいもほどほどに(なし)

 しばらくたってマティーニを頼むと、見事な手つきでキリリとうまそうな一杯を出してくれた。やはりなかなか腕がいい。喜んで一口飲んだ瞬間、吹き出しそうになった。マティーニはマティーニでも超ドライ。「チャーチル・マティーニ」のごとくの代物だ。何のことはない、ストレートジンだった。
 やられた。ストレートジンも飲めないことはないが、飲むには心の準備がいる。さあ飲むぞという覚悟がなければ結構きつい。それを普通のマティーニのつもりで飲んだものだからたまらない。もったいなくて吹き出しはしなかったが、明らかに今までからかっていたことへの報復だ。バーテンダーは、と見ると、はるか向こうですまして立っているが、目だけは、やった、やったと大笑いしている。

 人間、度を越して追い詰めてはいけないと知ってはいたが、バーテンダーは特にいけないと気付いた。なにせ酒の調合のさじ加減においてはプロなのだから。愛情も愛憎もブレンドは自由自在なのだ。

2004/08/26 掲載
 

貴重な?「ホールインワン」

 ススキノのバーH。モルトとシガーの種類が豊富なせいか、それとも看板娘のS嬢が目的なのか、すっかりおやじの巣と化しているが、最近また別種のおやじが増殖している。ゴルフ大好きおやじだ。
 オーナーがすっかりゴルフにはまっているのだからしょうがない。一時は狭い店内にパターとマットまで置いてあったくらいだ。当然、客同士の会話もゴルフ談議に花が咲く。ゴルフをしない私には多少うるさいが、酒場でのこと、酔っぱらいの会話と思えば何てことはない。
 

null画像 貴重な?「ホールインワン」(なし)

 オーナーのT氏、最近はめったにシェーカーを振らない。シェーカーはS嬢にまかせ、もっぱら振るのはクラブのようだ。華麗な二段振りの技もほとんど見られず、見られるのは二段腹と化した貫録ぶりらしい。
 と、皆でひやかしながら、嫌みにホールインワンというカクテルを注文した。ウイスキー、ドライベルモット、レモンジュース、オレンジジュースをシェイクしたものだ。が、オーナーいわく「そんなもん、何十年とお目にかかったことがないからレシピ忘れた」とのこと。明らかに居合わせたゴルフ自慢のおやじたちへの仕返しだ。

 確かにホールインワンは珍しいし貴重だろうが、そうそうたくさん出たら、ホールインワン保険を扱う損保屋さんはたまったものではない。そういえば、Hの常連の保険屋さんはシングルの腕前だったな。オーナーがレシピを忘れたことを聞いたらさぞかし喜ぶことだろう。

2004/08/12 掲載
 

小梅カクテル うめ〜

 友人から手作りの「かりかり小梅」をいただいた。小粒でおいしく、種まで食べられる。
 その足でエルミタアヂュへ出向いたところ、カウンターに酒の友CとTが陣取っている。さっそく隣に割り込んで梅干自慢だ。オーナーには迷惑だったろうが、カウンターで試食会と相成った。

null画像 小梅カクテル うめ〜(なし)

 こんな時は得てして悪ノリするもので、小梅を使ったカクテルを作ってもらおうとなり、何が良いか、かんかんがくがく。で、お願いしたカクテルはマティーニのオリーブならぬ小梅入り。普通なら怒られるところだろうが、そこはおちゃめなオーナー。「よござんすよ」とばかりにミキシングを始めてくれた。出来上がったカクテルはジンと梅の香りが意外とマッチしておいしいものであった。
 うまいうまいと喜んだ後に、さてこのマティーニの名前を何にしようかと、また盛り上がりだ。梅だから「ウメイニー」だの、ウオッカを使えば「サムイニー」だの、あげくには詰まって困って「ゴウメンニー」だの、酔い頭で散々騒いでいたが、今思えば、回りの客にはヒンシュクを買っていたのだろうな、きっと。

 バーには静かに飲み来ているお客さまがいるということに、ついぞ気が回らなかった。オーナー申し訳ない。もうしません。・・・でも。今度はラッキョウをもらえるので、パールオニオンならぬ、ラッキョウを使った「ギブソン」を、お願いしたいとひそかに考えている。

2004/07/29 掲載
 

世界を狭くして歩く男

 先日この欄で紹介した「上海マティーニ」(こんなカクテルは知らない!)をオーダーしてずっこけたF氏。久々にバンコクから帰国し、道内を転々としていたという。札幌で再開した時「すごい偶然があった」と、大興奮している。
 函館のバーMで、性懲りもなく上海マティーニを頼むと、バーテンダー氏が「どこかで伺ったような」と考えていたが、やがて「おふたいむ」を持ってきて見せてくれたという。

null画像 世界を狭くして歩く男(なし)

 登場したのを知らなかったFは「これはおれのことだ。土倉は友人だ」とびっくり。バーテンダー氏もびっくり。すると別のバーテンダーが土倉さんなら私も知り合いだと言い出し、楽しい時間を過ごしたそうだ。
 Fにはこの手の話が多い。私が以前、飛び込みで入った銀座の飲み屋のスタッフは、Fの友人だった。その時はあまりの偶然に、その場でバンコクまで電話をして確認した。また、あるクラブで卓話をさせたら会員と知り合いだったり、札幌在住のタイ人と知己だったり。世間ならず、世界を自分で狭く歩いているような男だ。

 先日元気に灼熱の国へ帰って行ったが、肝心の上海マティーニにありつけたかどうかは聞き損ねた。料理のうまいバンコクに住んでいるくせに和食しか食べないという、まことに無礼な食生活を送っているやつだから、いつかどこかのバーでFに遭遇したら「マティーニ」と「上海」を適当に混ぜて飲ませておけば良いだろう。

2004/07/15 掲載
 

日中からグビッ いいなぁ・・・

 先日シャンパンの豊富なバーHのオーナーと話していたら、朝九時まで飲んでいたと言う。九時といったら私はもう出社している時間だ。
 遅くまで営業している店なので、その後飲みに行ったらその時間になるだろうが、何よりも朝まで営業している店があるのには感心した。他のバーテンダーに聞いたら「昼まで飲んでいた」というつわものもいる。どうやらそうゆう店がちゃんとあるらしい。

null画像 日中からグビッ いいなぁ・・・(なし)

 前夜から翌朝までなんてまねは、今となってはできないが、昼から飲める店にはあこがれがある。東京では、そば屋で昼から粋に飲んでいるご隠居さんを見かける。そばをあてに昼から日本酒。うらやましい限りだ。
 銀座では日本酒メーカーの直営店があり、やはり昼から飲めるし、レストランでもシャンパンはいつでもオーケーだ。女房なぞは原宿に昼から営業しているバーを見つけてご満悦だ。
 札幌ではなかなか昼から飲めるバーは少ない。そば屋やレストランはあるのだが、バーとなるとせいぜい午後三時くらいからの営業だろうか。

 不勉強で知らないだけかもしれないが、一軒だけ朝から飲める場所を知っている。あるデパートのワイン屋だ。あくまで試飲という名目だが、ワインとシャンパンは確実に飲めるぞ。
 と言ったって、平日の朝から酔っぱらっていてはちょっと問題があろう。私にはせいぜい天気の良い休日に、ジンギスカンでビールが関の山だろう。

2004/07/01 掲載
 

新社会人に感心・・・完敗

 東急インのバーでぼーっとしていたら、スーツの着こなしもぎこちない社会人一年生と思わしき二人組がカウンターに来て、何やらオーダーしている。
 名前が聞こえなかったが、店のアルバイト嬢は「え?」という顔をしている。興味津々でレシピを聞いていると、ワイルドターキーとボンベイサファイアジンを同量でロックスタイルで、と言うことだ。

null画像 新社会人に感心・・・完敗(なし)

 なるほど。フランシス・アルバート・シナトラ(フランク・シナトラの本名)、東京の「バー・ラジオ」のオリジナルカクテルだ。本当はジンがタンカレードライジンのはずだが、なかなか渋い好みだ。若い人には珍しい。などと感心していたが、冗談ではない。そんな強い酒、夕方の五時から飲んでいたらぶっ倒れてしまう。私は昔ハードリカーを飲んだものだが、そのような飲み方はしたことがない。どちらもきつい酒なのにそのカクテルとは。
 と、見ていると、二人ともその恐ろしいカクテルをくいっと飲んで平然としている。さらに今度はボンベイサファイアジンをロックでオーダーし、平然と飲み続けている。

 それを見て、私はカウンターから滑り降りた。若い人は皆酎ハイが好みとばかり思っていたが、おじさんの偏見であった。中にはハードリカー好みもいるんだなと目からうろこやらコンタクトやらが落ちた気分で帰途についた。いくらおじさんがバーで粋がっても、もうかなわないと少々寂しい思いを抱いて。

2004/06/17 掲載
 

声大きい酔ったおじさん

 ススキノのそば屋Yで一人静かにそばを手繰っていたら、おじさん四人が入ってきた。
 学校のOB会の流れらしい。皆さん相当メートルが上がっており、口々に日本酒やら焼酎やらを注文してまずは乾杯。その後何やら熱く語り合っていたが、その声の大きいこと。まるで工事現場で叫びあっているようだ。静かなそば屋は、あっという間にガード下の焼鳥屋の騒がしさになってしまった。

null画像 声大きい酔ったおじさん(なし)

 面白いので見ていたら、いきなり校歌を歌いだすおじさんが一人増えたので、さて帰ろうと腰を上げると、一人が、もう帰るのか、一緒に飲もうとお誘いをかけてくれたが、ありがたくご辞退させていただいた。私だっておじさんだが、そこまでおじさんではないぞと思いながら。
 静岡の料理屋でもおじさん四人が入ってきていきなり大声で話し始めた。ゴルフ帰りのようで、どこそこのホールは林越えがどうだこうだとゴルフ談議に花が咲いている。おかげでこちらは誰がへたくそかまで分かってしまった。

 いつも思うが、とにかく酔ったおじさんは声が大きい。日本の機密保持がゆるいのは、おじさんたちから漏れるからではないだろうか。
 かく言う私も北京のレストランで騒いで、うるさいはずの中国人からにらまれたことがあるくらいだから、はたから見れば単なるうるさいおじさんの一人なのだろう。

2004/06/03 掲載
 

商売熱心になった中国人

 上海の新名所「新天地」のバーで友人Fがよせばいいのに格好をつけて「上海マティーニ」なるものをオーダーした。ウエーター氏、一瞬けげんな顔をして「没有(ないよ)」と言いかけたが、カウンターに行ってなにやらごそごそやっている。
 やがておもむろに持ってきたのは、ただのマティーニ。文句をつけると「上海で飲むから上海マティーニだ」と澄ましている。結局は飲んでしまったが、Fはおかげでそのバーで「ミスター上海マティーニ」なる称号をちょうだいしたようだ。

null画像 商売熱心になった中国人(なし)

 上海浦東空港は新しくてきれいだが、中国とは思えないほど禁煙が徹底している。すると、カフェは喫煙可。たばこを吸うにも有料というわけだ。
 カフェで「ウイスキーならこれ最高」とすすめてきたのはヘネシーのVSOP。これはブランデーじゃないかと言っても無駄だ。無視してコーヒーを頼むと「それならこれがいいよ」とすすめるのはカフェラッテ。根負けして飲んでしまった。

 中国人の物を売る時のエネルギーにはいつも負けてしまう。ないはずのカクテルは出てくるし、喫煙は有料、ウイスキーは最高級のブランデーになってしまう。開放政策以前の何でも面倒くさいから「没有」と言われていた時代が懐かしい。
 今度そば屋があったらかけそばを注文してみたいものだ。きっとてんぷらそば大盛りを食べさせられるはめになるだろう。

2004/05/20 掲載
 

90歳、深い年月しみじみ

 すすきのの真ん中。中小路のビルにある「B」というバー。重厚な木の扉を開けるとオーナーバーテンダーが笑顔で迎えてくれる。気配りの良いオーナーで会話も楽しく、モルトはもちろん、バーには珍しくフードも充実している。女性客にも男性客にも、もちろんカップルにも居心地が良い店だ。

null画像 90歳、深い年月しみじみ(なし)

 早い時間で客も少なく、オーナーと話をしていると三人の客が入って来た。ご老人とカップル。聞くとはなしに耳入ってくる会話によると、父親の九十歳の誕生日を祝った流れとのことだ。驚いた。とても九十歳には見えない。マスターが作ったオリジナルカクテルを「うまいなー」としみじみ飲んでいる姿は、かくしゃくとした紳士である。
 泡盛を愛飲しているとのことで、これが長寿の秘けつかと「酒は百薬の長」という言葉に納得させられた。考えてみると、店にあるどんなモルトウイスキーよりも長寿のお方だ。私がいくら中年だと言ったところで私より古い酒は世の中にいくらでもある。でも九十年ものにはお目にかかったことがない。九十年という年月の深さをしみじみと感じさせられた。

 五年たったらまた来るよと言っていたけれど、そんなこと言わないで、ぜひとも毎年来ていただいて、百歳の誕生日にも美酒を飲んでいただきたい。その時にもまた、カウンターの片隅で同席させていただきたいものです。

2004/05/06 掲載
 

はしは上手に使えても・・・

 ハワイに行くと日本人では比較にならないほど肥満にた人々えを見かける。よく日本足で体を支えきれるなと感心するほどだ。そのせいかは知らないが、健康なイメージの日本食への関心が強いようだ。すしやら鉄板焼きレストランで、私よりずっと上手にはしを使う米国人の多いこと。思わず手元を隠したくなる。
 久々の休暇でハワイに行った時、毎日のマヒマヒやオノなどのハワイ料理にさすがに飽きて、ホテルの日本食レストランへ行った。イカ納豆やナス田楽に舌鼓を打っていると、隣に米国人カップルが案内されてきた。何やら定食を注文。酒はキリンラガーだ。はしの使い方も二人ともうまい。うーむ。なかなかやるわいと感心していた。

null画像 はしは上手に使えても・・・(なし)

 楽しそうに食事が進み、きしめんが出てきた時、二人の表情が変わった。何やら苦情僧のような顔つきできしめんをもそもそたくっている。よく見るとつゆをつけず、めんだけを食べているのだ。あれじゃまずいはずだ。食べ方を教えてよいものか、余計なお世話なのか。向かいにいる女房もおかしいやらハラハラやらで複雑な表情をしている。

 やがて従業員を呼んで食べ方を聞き出し、二人はやっとおいしい顔に戻り、こちらもほっとした。後から従業員が来て言うには、初めてきしめんを食べたのだそうだ。彼らが従業員に「つゆがあるとはつゆ知らず」と言ったかどうかは定かではない。

2004/04/22 掲載
 

外国人の頼み事

 台北に行くと、日本人のオジサマたちはクラブやカラオケ店がいっぱいある街にたまっているが、欧米人がたまる街もある。小さな英国風のパブやバーが軒を連ねるエリアで、中には怪しげな店もあり、セーラー服にミニスカート、ルーズソックスという訳の分からない格好の小姐が「歓迎光臨(いらっしゃい)」と黄色い声を張り上げていたりする。

null画像 外国人の頼み事(なし)

 街は午後九時くらいから不良外人でにぎわう。彼らに交じってパブで夕食を取っていたら、私の怪しげな北京語と英語で見当を付けたのであろう、端にいた白人が「彼、日本人だよ」と言っている。そしておもむろにウオッカのボトルごと移動して来て「頼みがある」。
 こっちも一人でひまを持て余していたので何だと聞くと、カシオの腕時計の時間調整をしてくれと言う。出てきたマニュアルは日本語版だった。日本のディスカウントショップで買ったらしい。任せなさいと始めたら、これが多機能の時計でなかなか手ごわい。てこずっていたら、ご当人は横でウオッカをあおりながら「まだか」ときた。

 テキサス出身で三ヶ月後にはスペインに赴任とのこと。調整を終えたらただ一言「サンクス」のみ。一緒に一杯やろう、でもなく、さっさと向こうに行ってしまい、異国の地で少々寂しい気分になってしまった。
 でも、調整はしたが使い方は教えなかったので、スペインでまた日本人を探さなければならないだろうな彼は。

2004/04/08 掲載
 

「傾ける」なら杯の方が・・・

 最近は乙類の焼酎がブームだ。居酒屋は当たり前のこと、バーでも各種の焼酎をそろえているところがある。とともに、飲み方もなかなか難しい話が聞こえてくる。お湯割りは本式には水割りを作り、最短で一晩おいてから燗するべきだ。時間がなければ、せめて焼酎を先に入れ、あとからお湯を足すべきだ。こうすると分子が良く混ざっておいしく飲める−などなど。

null画像 「傾ける」なら杯の方が・・・(なし)

 前のワインブームの時もそうだが、日本で酒類がはやる時は、まず何らかの健康に良いというきっかけがあり、ブレイクするようだ。その後、飲み方などのうんちくを語る人が増えてくるように思える。うんちくを傾けるのは世界共通かと辞書で調べると「知識のすべてを披露する」とあった。やや違う感じだ。やはり日本特有のものなのか。
 学生時代に行った英国のパブではビールは地場のものだけで、各種取りそろえなどない。マスターのうんちく?はただ一言「うち(この地方)のはうまいぞ。飲め」だけだった。イタリアのワインもデカンタで持ってきて「うまいから飲め」。アジアでも国や地方でそれぞれの酒があり、種類は少ない。あれこれ選ばずに良いし、私は「郷に入れば」主義なので何でもおいしくいただいている。

 今日もススキノでは各種多量の焼酎がうんちくとともに飲まれていくだろうが、私としては「うまいから飲め」と、一升瓶でドカンと置かれた酒を鯨飲したいものだ。

2004/03/25 掲載
 

今から40年後じゃあ・・・

 先日テレビを見ていたら、アイラ島のモルト蒸留所へ、若いタレントが修業に行くという番組があった。アイレイモルト好きの私としては垂涎の番組だ。中でもポウモア四十年は画面越しにもアロマが漂ってきそうな逸品である。
 番組ではストレートで飲んでいたが、私にそのまねはできない。生来胃弱ということもあるが、私は水割りでもストレートでも飲むスピードがまったく変わらないのだ。そんなまねをしたらあっという間にご酩酊だ。これも学生時代に刷り込まれた「多く早く飲んだもの勝ち」という精神のおかげだろう。こんな飲み方では、精魂込めてモルトを作っている方々に失礼だ。

null画像 今から40年後じゃあ・・・(なし)

 横で日本酒を飲みながら見ていた女房が「おいしそうだね」とうらやましそうだ。そこで先日バーに行ってストレートを試してみた。もちろん四十年ものなどという高価な酒ではなく、ラガブリン(これもおいしい)で、女房は「いい香り。甘い。おいしい」。ものの数分でグラスを干してしまった。酔ったかなと見ると「次は日本酒」とすました顔をしている。飲み方はやはり同年代を過ごした人間だ。

 番組で一番うらやましかったのは、蒸留所を旅立つ日に原酒をたる詰めし、「十年後でも四十年後でもおまえの好きな時に飲みな」と進呈されたことだ。私が「四十年後じゃ飲めないな」とぼやいたら、女房殿いわく「あら、私は飲めるわよ」と見せられた手のひらには、立派な生命線が走っていた。

2004/03/11 掲載
 

新味作るブレンドの妙

 酒の話を書いているが本業はお茶屋だ。でお茶屋の仕事で最も重要なことはブレンドだ。業界では「合組み」という。
 異なる茶畑または各産地のお茶を合組みすて、その茶店独自の味をつくる。お茶も天然に取れるものであるから収穫する茶葉は毎年異なる。その均一化も合組みにかかっている。

null画像 新味作るブレンドの妙(なし)

 茶葉同士の相性は不思議なもので、個々のお茶はおいしくても合組みしたらお互いの欠点のみが強調される場合もあり、反対にそれといった特徴のないお茶がうまさのベースになったりする。まさにマリアージュ(結婚=組み合わせ)のだいご味だ。
 お茶の合組みが安定のためのブレンドとしたら、カクテルのブレンドは反対に革新のためのブレンドと言えるだろう。星の数ほどある飲料をブレンドして新しい味をつくっていく。

 バーテンダーという仲人の取り持つ新たなマリアージュは素晴らしい、の一言に尽きる。客の中には「今日の雰囲気で作って」とか、ひどいのになると「今日の服の色で」なんてのまで(わが女房殿であるが)いる。お茶ではとっさにはできっこない。それを、笑みを浮かべながら「ようござんすよ」とばかりに手際よくつくるバーテンダーには脱帽だ。
 結婚記念日が近いわれわれ夫婦は気がつけば四半世紀を共に過ごしている。記念日にバーに行ったら女房はなんというカクテルを注文するのだろう。そしてわれわれの合組みは、どんな味を醸し出しているのだろうか。

2004/02/26 掲載
 

「がんもどき」で弾む会話

 バーのオーナーの女房と三人で「寒くなりましたね」という話から、おでんと熱かんが恋しいという話になった。酒飲みのことだから、話はあっちに行ったりこっちに行ったり、気が付くと「がんもどき」の話になっていた。語源は何だろうとなり、女房は携帯電話を出してウェブに問い合わせをしている。むむむ、今や携帯電話は単なる通信手段ではなくなったらしい。
 で、分かったことは、漢字で書くと「雁擬」。雁に似た味だからということらしい。それからいろいろな「○○もどき」の話となり、ついにアルコールもどきを飲んでみよう、となった。

null画像 「がんもどき」で弾む会話(なし)

 すると女房がすました顔で、「もどきならノンアルコールビールを飲めば」とのたまうではないか。自分では決して飲まないくせに。それは面白くないので、オーナーにノンアルコールのカクテルを頼むと、手際よく何種類か作ってくれた。これがうまい。ノンアルコールは今までばかにしていたが、ミントやらライムやらの味が引き立ち、とてもさわやかな飲み口だ。
 中でもミスターマンハッタンというショートカクテル「もどき」はこれでアルコールなし?というくらい。下戸だったら十分酔ってしまえるのではないだろうか。女房はそれにウオツカを足して飲んでいたが・・・。

 今は技術が進み、もどき商品がはんらんしている。味もまあまあだが、食とし好品は昔ながらの本物を楽しみたいものだ。
 それでもやっぱり熱かんにがんもどきは大好きなんだなー。

2004/02/12 掲載
 

それでも酒は「百薬の長」

 空前の喫煙ブーム(?)だ。タバコは精神の安定が得られるとして、大航海時代にヨーロッパに伝わったらしい。しかし今や空港はもとより、飛行機内、車両、路上に至るまで公共の場所はほとんど禁煙と化した。そのうちタクシーもどうなるか分からない。
 先日病院へ行って驚いたのは、病棟の禁煙は当たり前として、なんと敷地内禁煙というものだ。面白いので警告を見ていたら「入院中の喫煙や飲酒は禁止しております」というのがあった。思わず「あたりまえじゃん」と思ったが、確かアルコールは昔は薬だったんだよなと思い出し、少々複雑な思いになった。

null画像 それでも酒は「百薬の長」(なし)

 アルコールは有史に残っている最古のし好品だ。古代メソポタミアではすでにビールが飲まれていたらしい。十九世紀のヨーロッパでは、黒ビールが滋養に富んだ飲み物として重宝され、野戦病院などで回復食に用いられていたという。日本だって刀で負った傷に焼酎を吹きかける場面が時代劇に登場する(もったいない)。しかし役立つ反面、第一次世界大戦で兵士が愛飲したアブサンは、その幻覚性と中毒性からたくさんの廃人を出して製造停止になった。

 酒は百薬の長というが、まさにその通り。飲み方によっては毒にも薬にもなるというのもその通り。でも、どなたか昼は滋養の黒ビール、夜はポリフェノールたっぷりの赤ワインを調合してくれるクリニックをご存じないだろうか。小ビン程度でよいのです。世界のどこかであろうと、健康診断はそこで受けたいものです。

2004/01/29 掲載
 

効き過ぎて飲み過ぎた

 カクテルにも風物詩というか、季節がある。私は夏はミント系を多く飲む。そして忘年会、新年会と続くこの季節は、何と言ってもウンダーベルグだ。これは季節感なんてしゃれた感じで飲むわけではない。飲み過ぎで胃の具合が悪いときに飲むと、すっきりしてくるのだ。
 ウンダーベルグは四十以上の薬草が使われている、苦い味のスピリッツだ。遠い昔、バーは病院の役目もしたらしく、疲れた旅人に薬として処方したという。ストレートでもロックでもおいしいが、私はショートカクテルにしていただく。二杯も飲むとあら不思議、不快感が消えて何杯でも飲める気になる。というのは大げさだが、ソ○マック並みの効果はあると思う。

null画像 効き過ぎて飲み過ぎた(なし)

 先日フランス料理のフルコースを食する機会があったが、すっかり居酒屋体質になっているおじさんには、やはり重すぎた。宴が終わりタクシーに乗ったが、胃がもたれているのが分かる。さっそく思い出したのがウンダーベルグだ。
 家に向かうタクシーを方向転換してもらいバー「ドゥ エルミタアヂュ」へ。中田オーナーに「ウンダーベルク胃薬タイプで」と、訳の分からない注文をすると、そこは心得たもので、おいしい一杯が出てきた。そのうち不快感はどこかへ飛んでいってしまい、ちょっと引っかけて帰るつもりが午前様と相成った。いつものパターンだ。

 次回からは、せいぜい夜十二時で効き目の切れるカクテルにしてもらわなきゃ。

2004/01/15 掲載
 

冗談も酒もほどほどに

 タイ北部。「タイの京都」といわれるチェンマイのバーで、いつものごとくバーボンを注文した。
 ワイルドターキーはないというので、私はジャックダニエルのダブルのソーダ割り。最近タイ語を覚えつつある友人Wは、同じくシングルを怪しげなタイ式英語で注文した。「シングル、ソーダ」。ところが出てきたのはタイで有名なシンハービールだった。Wは目を白黒させ、カウンターの女性も当惑している。

null画像 冗談も酒もほどほどに(なし)

 タイ在住の友人Fによると、タイ語の複雑な文法と発音では「シングル」は「シンゴン」となるという。Wの注文は見事に「シンハーゴールド」という名のビールに化けてしまったというわけだ。
 まあその場はFの説明で大笑いとなったが、これに味をしめたW。バンコクに戻ると、バーに行くたびにわざと間違われる発音をして、お姉さんを当惑させては喜ぶというまったく困ったおじさんと化していた。

 あげくの果てに、泊まっていたコンラッドホテルの女性に出身地を尋ねまくっている。何をするのかと思ったら、目当てのコンラート出身の女性に当たると、「ここのホテルの生まれかー」と、どうしようもないダジャレをかましていた。
 その罰が当たったのか、ワイルドターキーのシングルをオーダーしたら、なぜか「アサヒビール?」と聞き返されて閉口していた。おじさんの冗談も酒と同じにほどほどにしなきゃね。

2003/12/25 掲載
 

カウガールよ再び

 最近あちこちのバーやレストランで「ベイリーズ」というリキュールを目にする。クリームと、ショコラとバニラのフレーバー、アイリッシュウイスキーをブレンドしたものだ。なかなか芳純な味で、酒というよりはデザートみたいな感じだ。
 私は一時これにはまって、オンザロックにしてけっこう飲んだものだ。ただしアルコール度数が低いので、つい杯を重ねてしまって結構高くついてしまうことになる。 

null画像 カウガールよ再び(なし)

 クリームを使った酒はこのほかにもラム・クリーム、カクテルではカルーアコーヒーリキュールとミルクを使ったカルーアミルクなどがあるが、いずれもおいしく、食後などにはおすすめだ。
 まことに古い話になるが、今から二十年くらい前に「カウボーイ」というカクテルのキャンペーンが大々的に行われたことがある。ウイスキーの水割りならぬミルク割りだ。牛乳拡販のキャンペーンで、きれいなキャンペーンギャルが西部劇のカウガールの衣装(もちろんミニスカートです)を着て、ピストルの代わりにミルクを持って盛り場のスナックやクラブをパトロール≠オたものだ。当然、酔ったおじさまたちは喜んでカウボーイを飲んでいた。

 「胃に優しい」だの「二日酔いしない」だのと、一時ススキノはカウボーイに染まっていたが、いつの間にかなくなってしまった。カウボーイはともかくとして、カウガールは復活しないものであろうか?

2003/12/11 掲載
 

「中国」を飲み干した夜

 ある航空会社の機内誌にカクテルのエッセーが連載されている。先日読んだのは「上海」というカクテルだった。
 「マンハッタン」など、地名を使ったカクテルは多いが、中国の地名とは珍しい。もともとミーハーで酒好きな私は、その夜さっそくドゥエルミタアヂュに出陣。オーナーに上海を注文した。

null画像 「中国」を飲み干した夜(なし)

 私が新しいカクテルを頼む時のネタ本はばれているのだが、オーナーは何も言わずににこやかにシェーカーを振ってくれる。うまいカクテルだ。ラムとアニゼットの組み合わせが絶妙だ。
 隣に居合わせたC嬢が「私にも」とまねて注文した。ところが、C嬢の好みを考えてか今度は上海にアブサンが加えられ、若干レシピが違う。ちょっと飲ませてもらったらこれがまたいける。
 名前は何と付けましょうということになり、ここからカクテルの中国シリーズ化が始まってしまった。
 

 シソジュースを使って「紫禁城」はどうだ。黒いカクテルで「桂林」はどうだ。北京は、いや大連は、万里の長城は、と、こうなると酔っぱらいのこと、歯止めがきかない。オーナーも乗ってきて、皆でわいわい言いながらいろいろなカクテルの試飲と相成った。
 ふと気づくと結構な時間がたっていて、結構な量も飲んでいる。まぁ、つまりいつものように酔っぱらっている。やはり上海は人を酔わせる「魔都」だったんだ。

2003/11/27 掲載
 

おごりの1杯、命取り!?

台北のホテルバーは夕方早くから開いているのがうれしい。バーテンダーは二人いて、夕方は若いバーテンダー。笑顔がさわやかできびきびと働いて気持ちがいい。夜になると中年のバーテンダー氏に代わる。頭がややバーコード化して、態度も大きいが円熟味を感じる。
 女房と二人、夕食後カウンターに陣取っていたら、中年バーテンダー氏が英語で話しかけてきた。「日本人か」。いつものパターンだが、中国語よりは楽だ。女房は英語が得意なのでうれしそうに話している。

null画像 おごりの1杯、命取り!?(なし)

 旅の目的やら何やらたわいもない話をしていると、何を思ったのか「○○○を知っているか」と来た。日本語らしいが良く分からない、でもそこは年季の入った酔っぱらいのこと。貧弱な語彙(ごい)の中から女房と、思いつく限りの単語を並べたが、すべて違うとのこと。二人してギブアップ。するとバーテンダー氏、一冊の本を持って来た。まったく見たことのない本だ。以前日本から来た客が「日本でとても有名だ」とくれたのだそう。

 得意そうにしているものだから、いまさら「知らん」とも言えないし、お世辞に「ああそれか!有名だよ」とヨイショをすると喜んで、「おごりだ」と一杯ずつごちそうしてくれた。
 こうなると酒飲みはだらしないもので、今度はおごりではない酒をどんどん注文してしまう。ひょっとしてバーテンダー氏、日本人と見るといつもこの手で売り上げ増を狙っているのかも。

2003/11/13 掲載
 

酔って犬とたわむれて

 台湾にお茶と茶器の仕入れに行った。茶器はおじさんの感性より女性の方がよいだろうと、女房を同行させた。チェックイン後、バーへ行きバーボンソーダーで一服。いやうまかった。
 その後貿易会社を営む親子と商談。私も女房もカクテルの一、二杯は水と同じだ。順調に話は進み、これから茶器を見に行くことになった。しかし「その前に晩ごはんを一緒に」とお誘いを受けた。

null画像 酔って犬とたわむれて(なし)

 案内されたのは政府要人ご用達のレストラン。ぜいを尽くした料理の数々、そして紹興酒も素晴らしい。飲み方は相手とともに一気に杯を干す「乾杯方式」だ。この後「仕事なのにまずいな、特に女房は」と思ったが、「女性には随意(乾杯しないで自由に飲むこと)」と言うので安心。が、これが裏目に出た。
 乾杯は相手もあるので間隔を置いて飲む。が、女房はなにせ随意だ。勝手に一人でクピクピクピと飲んでいる。四人で四合びんが四本。相手がさほど飲めないのでけっこう飲んだことになる。そっと女房を見るとすました顔をしている。うーむ、さすがと感心しながら茶器店へ。

 打ち合わせ後、さて現物の選定に入ろうと振り返ると、後ろにいたはずの女房がいない。何と四つんばいになって店の犬と話をしているではないか。犬も喜んで顔をなめたりしている。酔っている・・・。犬にはトラウマがあって怖いはずなのにアルコールはそれを飛ばすらしい。
 でも、犬になっただけで良かったかも。女トラにでもなられたらと思うと・・・。

2003/10/30 掲載
 

きょうもまた、パトロール

 私の飲み歩きのパターンは、犬の散歩だ。決まった店で飲む。まさに犬のパトロール、マーキング行為だ。違うところは、エレベーターなる便利なものがあるため、行動が左右上下と三次元に及ぶことであろう。
 焼酎ブームに乗せられたわけではないが、近ごろ食事のお供はイモ焼酎というパターンが多い。イモ焼酎は癖があって、と敬遠する方もいるようだが、私の場合は約三十年前に初めて飲んだ時から気が合った酒だ。

null画像 きょうもまた、パトロール(なし)

 「土竜」「佐藤」「海童」などをよく飲む。いきおい行く店はこれらを用意している店が多くなる。落ち武者の隠れ集落を意味する店名のK、そばのうまいY、イタリア料理(オーナーいわく洋食屋)のNなどに足しげく通うことになる。
 中でもK。焼酎はもとより日本酒、ワインと品ぞろえが見事だ。いかつい感じのオーナーが厳選した酒と、腕の良い料理長が作る繊細な料理の組み合わせが絶妙だ。季節の素材を使い、まさに「旬」が楽しめる。

 うまい酒と料理の組み合わせは、心と体を幸せにしてくれる。飲んで食べて、ほろ酔い加減で満足して帰路につけば、明日はさわやかな朝を迎えることができるのだが、どっこいそうは問屋が卸してくれない。
 だってKの上階にはこのコーナーの相方、中田耀子さんのバー「ドゥエルミタァジュ」があるのだ。本能がニュートンさんの法則に逆らって上方へのパトロールを開始してしまうのだ。

2003/10/16 掲載
 

閉店…常連たちとも別れ

 長年付き合ってきたバーLが店じまいするという。L字形のカウンターの中にはオーナーが一人だけ。飾り気のない落ち着けるスペースに、常用されているバカラをはじめとするすばらしいグラス類。まさに私のスピークイージー(隠れ家)だったので残念だ。
 客もオーナーの人柄にひかれ、常連の巣と化している。初めて連れて行った友人も、いつの間にかすっかり居ついている。以前オーナーが入院した時、常連の一人が「明日からおれはどこへ行けばいいんだ」と頭を抱えたほどだ。
 

null画像 閉店…常連たちとも別れ(なし)

 常連ばかりであるから、当然みな知り合いとなる。歳も性別も仕事も何も関係ない、ただの飲み助の会話は楽しい。小学校の同級生と再会したのもこのバーだし、縁があって今、私の会社で活躍していただいている人もいる。
 サラリーマン、公務員、幼椎園の先生、個人事業者、経営者、フラワーアレンジメント、主婦兼学者、業界人、編集者、エトセトラ。まさにバーは人生のるつぼである。

 

 次の経営者には居抜きで貸すらしいので店の感じは変わらないだろうが、オーナーが変わった店は、また別の顔を見せていくのだろうな、きっと。
 これで常連客は散り散りに去って行くわけだが、同じ行動ベクトルを持つわれわれ飲み助のこと、いずれいずこかのバーで再会することだろう。
 それまでロンググッド・バイ。そして「再見!」

2003/10/02 掲載
 

カクテルならぬドレッシング

 ミントジュレップは私の好きなカクテルの一つだが、困るのはミントを用意していないバーがあることだ。清涼感を期待してオーダーし、ないと分かった時の失望はかなりのものだ。
 バーHはモルトの種類が豊富なことで有名だが、ミントはない。オヤジの巣であるから用意していてもムダなのだ。それでは持参して行けば文句はないだろうと、友人のCが自慢の自家菜園から選りすぐりのミントを産地直送することとなった。

 

null画像 カクテルならぬドレッシング(なし)

 カウンターに陣取ったCは早速、「ミントジュレップ!」。当然「ミントはありません」と言われる。そこでおもむろに持参のミントのご登場である。
 従業員のS嬢が一生懸命ミントをつぶしながら「いい香りですねー」と感激している。できあがったカクテルをご満悦で飲んだCは「何かヘンだぞ。香りが変だぞ」と思ったらしいがミントを持ち込んだ張本人である。もしや酔っぱらって味覚音痴になった?などと考えつつ、首をかしげながらもウマイウマイとありがたく飲み干した。
 

 後日、菜園の手入れに出かけると採ったと思ったミントは青々と生い茂り、代わりにバジルがたくさん収穫されていたという。思い込みとは恐ろしい。何と彼女が飲んだのはバジルジュレップだった。これじゃあカクテルならぬドレッシングだ。
Hのスタッフは気がついていただろうが、優しいみんなのこと、せっかく意気揚々と持ってきた友人を悲しませないために、黙っていたのだろうな。きっと。

2003/09/18 掲載
 

玄関前 男女の攻防

 時折、明け方に目が覚めることがある。ちょうど夜と朝の境目。寝付かれないままに窓から道路を見下ろす。
 街の中心部からのタクシーには「割増」の表示が多い。反対方向からは圧倒的に「空車」の表示だ。たまに「割増」同士が交差すると、住宅街からの人は何をしている人々かなと想像をかきたてられる。
 街からの人は、酔客・飲食店の従事者。そして中にはキレイなお姉さまを送りがてら、うまくいったらなどと、よからぬ考えを持っている紳士も少なくないだろう。

null画像 玄関前 男女の攻防(なし)

 お姉さまはアフターで食事を済ませ、うまくいったら交通費もロハになる。家の前に着いたら「今日はありがとう。ごちそうさま」という訳だ。わが家近くのマンションからも時々この声が聞こえてくる。
 紳士諸氏の誘い方は、古典的ではあるが「部屋でお茶を飲ませて」が多いらしい。中には「トイレを貸して」という知能派もいるという。
 

 それに対してお姉さま方は「妹が(なぜか妹。姉ではない。母でも可)泊まりに来ているの。ごめんなさい」が一番多いそうだ。「ペットが病気で」というのもあるらしい。面白い攻防戦ではないか。
 友人のバーオーナーは逆に女性から送っていってと誘われ、マンションの前まで紳士的に送っていった。タクシーが出発するときに彼女の発した言葉は「ありがとう」ではなく「意気地なし!」だったそうだ。

2003/08/21 掲載
 

勘定書きを見てぎょっ

 齢(よわい)五十一になってしまった。自分では若い若いと思っていたが、さすがに最近は体力の衰えを感じてきた。無理もない。ゴルフをはじめ、スポーツはやらない。移動は車。後は事務所に座っているという生活の繰り返しだ。どこといって悪いところはないのだが、無理がきかなくなってきたというところか。
 年を取ると飲酒時の記憶が無くなるというが、そのささいな兆候(?)が最近表れて来たような気がする。
 

null画像 勘定書きを見てぎょっ(なし)

 話したことを忘れたりとか、三次会で行った店を覚えていないとかはないが、勘定でいくら払ったかを時々思い出せない。財布をのぞくと確実に現金が減っているし、出入り禁止の店もないから、幸いなことに飲み逃げはしていないようだ。こんな状況ではあるが、勘定の端数まで覚えていたことがある。

 先日、奉仕クラブやゴルフクラブ、はたまたキレイなお姉さんのいるクラブまで、クラブ活動が大好きな友人とクラブで飲んだ時。割り勘でカード精算した。私は適当にサインしたが、 友人は「ナンじゃこれー」と奇声を上げている。見ると金額が一ケタ違っていた。銀座じゃあるまいし、そんな高いわけがない。ましてや、そんな所へ行けるわけない。店のミスだ。精算し直して事無きを得た。それでしっかり端数まで覚えている。
 精算を間違うのは困るけど、私が精算を忘れて帰っても、それを忘れてくれる都合の良いお店はどこかにありませんかね。

2003/08/07 掲載
 

マスターの振る舞い

 鹿児島に池田バーという四十年も続いている老舗のバーがある。マスターは七十歳前くらいで、めったにシェーカーを振らず、カウンターの左端のビールサーバーの横に陣取っている。そして、時々チーフの目を盗んではサーバーからビールをちびちびと拝借している。
 チーフも心得たもので、普段は見てみないふりをしているが、たまに目が合うと「おやじさん飲み過ぎないでくださいよ」とたしなめている。

null画像 マスターの振る舞い(なし)

 マスターは「怒られちまった」と肩をすくめるが、二十分もすると性懲りもなくまたちびちびと飲み始める。
 そんな雰囲気が好きで、鹿児島へ出張の折は必ず立ち寄る。先日も行こうと思ったら、鹿児島のお茶屋が「バーだったら一軒紹介したいところがある」というのでまずそこへ。
 店の名は「スティンガー」。私の好きなカクテル名と一緒だ。早速注文してみると、うまい。そこのオーナーは池田バーの出身で、何げなく池田マスターお元気ですかと聞くと、なんと先日亡くなられたとのこと。

 あまりの驚きに声が出なかった。闘病の姿を見せず、常連の客たちに長い手紙(遺書)を書いて静かに逝ってしまわれたという。とたんにカクテルが水っぽくなってしまった。
 その後、チーフが後を縦いだ池田バーに寄った。雰囲気は全く変わらなかったが、カウンターの隅にマスターがいないバーのモルトは、おいしく、そして哀(かな)しい味がした。

2003/07/24 掲載
 

上手の手から酒こぼれ…

「猿も木から落ちる」ということわざがあるが、お洒のプロであるバーテンダー諸氏もけっこう木から落ちているようだ。
 先日ボルドーワインを開けていたMが苦戦している。やがてポッキリとコルクを折ってしまった。われわれ酔っぱらいがはやしたてる中、折れたコルクを平然と差し出して「いい状態のワインです」とごまかしたのはさすが。同僚のNは「私は折れたコルクを抜くのが得意です」と威張っていた。相当経験を積んだのだろう。さらにNは焼酎を注ごうと、手つきも鮮やかにボトルを傾けたが、一向に出てこない。当たり前だ、キャップが付いたままだ。

null画像 上手の手から酒こぼれ…(なし)

 バンコクのバーテンダーはシェイカーを空中に投げ上げ、背中に回した手で受け止めるのだが、これが成功率が半分以下だ。でも心配はない。トップをきつく閉めているから落ちてもこぼれることがないのだ。拾ったシェイカーのトップをペンチで外してグラスに注ぐ。う−ん、まさにハードシェイク。
 Tは時々他の客のボトルから間違って注ぐ。あれっと思って指摘すると「気にしないで飲んでください」と来た。気にするのは私ではなく、飲まれた客のはずである。
 

 先日一緒に飲んだS。アルコールには強いはずなのに寝てしまった。疲れているのかなと、そっとしておいたら、だんだん体が傾いて、やがていすから落ちてしまった。
 やはりたまにはバーテンダーも落ちるのだ。

2003/07/10 掲載
 

気持ちが沈んだ日は…

 東急インの横、109プラザにあるバー。あまり他人と会話したくない時や、気持ちのミリバールが下がったような日はよくそこに行く。
だだっ広いホールの片隅にカウンターがあり、中には女性バーテンダーが二、三人。仕切りはなく、冬は寒いくらいだ。数台のモニターが無音のテレビ映像を流している。
 スツールによじ登り、いつもワイルドターキーのソーダ割りを注文する。後は無言で飲みながらモニターを眺めている。バーテンダーはこちらから声をかけない限り話しかけてこない。時間がゆっくり過ぎていく。 

null画像 気持ちが沈んだ日は…(なし)

 夕方にもなると、いろいろな人がバーに寄り、また、ホールを通り過ぎていく。
 待ち合わせか、携帯電話をかけっぱなしの女性。時計を気にしている同伴出勤のお姉さん。幸せそうなカップル。地図を見ながら打ち合わせをしている数人の観光客は、今夜のお楽しみ探し。接待前の一杯か、うまそうにビールを飲んでいるサラリーマン。バーテンダーと楽しそうに話しているおじさんは常連だろう。 

 いろいろな人生が私の背中を通り過ぎていく。
 さまざまな人がいるのだなと思いつつ、二杯ほど飲んでいるとやがて気持ちのミリバールが上がってくる。そして私はスツールからすべり降りる。人恋しくて。
「故郷の訛り懐かし停車場の人ごみの中にそを聴きに行く」 石川啄木

2003/06/26 掲載
 

静寂の中で味わう「闘鶏」

 新茶時の静岡にしては珍しく梅雨のような雨がしとしとと降る中、久しぶりにTというバーに顔を出した。米国南部の州を店名にしているだけあって、店の中はバーボンでいっぱいだ。マスターの風ぼうも、テンガロンハットをかぶせると田舎のカウボーイそのものときている。
 メーカーズマークのマリリンモンロー陶器ボトルの前が私のお気に入りの席だ。「七年目の浮気」の有名なシーンがそのままボトルになっている。モンローはボトルでもセクシーだ。

null画像 静寂の中で味わう「闘鶏」(なし)

 従業員は帰り、ほかに客もいない。マスターとの間にはただ静寂が漂っている。モンローの脚を眺めるのにも飽き、カウンターの奥に目をやるとシングルモルトのラフロイグがあった。どうしてもモルトでなくてはというお客がいるとのこと。他のバーでは当たり前の光景だが、ここでは妙に違和感がある。
 気が向いてマスターの好みを聞くと、うれしそうにボトルを出してきた。ファイティング・コック(闘鶏)という何とも勇ましい名のバーボンだ。度数は五一・五度ある。私の好きなワイルドターキーは五〇・五度だから鶏対七面鳥対決は僅差(きんさ)で鶏の勝ち。

 たわいもないことを考えながら飲んでみたら、これがウマイ。度数の割にはロックで飲んだほうがスムーズに入っていく。「マスターうまいね。これ」「そうでしょう。大好きなんですよ」。それきり会話は止まり、ファイティング・コックの香りとともに心地よい静寂が漂い始めた。

2003/06/12 掲載
 

断り続けたらあだ名が…

 盛り場に付き物と言っていいのが客引きやチラシ、ティッシュ配りだ。ティッシュはまだ使いでがあるし、チラシは後から捨てれば良いが、一番困るのが客引きだ。酔っぱらって千鳥足のおじさんは千鳥ならぬ格好のカモに見えるのだろう。しかし一応目的があって歩いているのだから、誘われたって行き先を変更するわけにはいかない。
 仕事柄出張が多く、いろいろな盛り場に出入りするが、一番驚いたのは鹿児島の天文館。きれいなお姉さんにいきなり腕をつかまれ、そのまま店に引きずり込まれそうになった。内心ちょっとうれしかったが、もちろん逃げたのは言うまでもない。

null画像 断り続けたらあだ名が…(なし)

 銀座は最近不景気らしくて、きれいなお姉さんがあちこちに立っている。ボラれたりはしないのだが、店に入るときれいなお姉さんは消え、普通のお姉さんのご登場となる。圧倒されたのはタイのバンコク。歩道は客引きのお兄さん、お姉さんで埋めつくされている。口々に「スケベ」「シャチョウサン」などと叫んでうれしく、いや、やかましくてしょうがない。

 このごろススキノにも中国人の小姉が出没して「マッサージ気持ちいいよ」と客を引いている。よく行くバーのそばにも、いつも数人がたむろしていて必ず声を掛けてくる。ずっと「不要」と断り続けていたら、最近はほろ酔い加減の私の顔を見るなり「不要、不要」と呼びかけてくるように。どうやら彼女たちに「不要先生」と命名されたらしい。それこそ不要だわい。

2003/05/29 掲載
 

2人の時間は突然に…

 リラ冷えの夜、彼女は寒いと言って震えあがっている。さっきまでの食事の余韻もすっかり冷めてしまっていた。
 ロビンソンデパートの向かいにあるバー「R」は、時間が早いせいか、閑散としていた。彼女はホットバタードラムにアマレットを足したもの。私はワイルドターキーソーダ。やがて出てきた湯気の立つグラスを両手で包み込むようにして彼女は言った。「温かい。おいしい」。静かなBGMのかかる店内には気だるい空気が広がり、寒さはどこかへ追い出されていった。
 

null画像 2人の時間は突然に…(なし)

 「もう一杯おかわり」と彼女。いつもよりペースが速い。私はまだ一杯目を飲んでいるのだが…。そしてまたゆっくりと二人の時間が過ぎていく。
 バーは通りに面して窓が広く取ってあり、外を眺めていると、まるで水族館の水槽を見ているような気持ちになる。北の海にいる魚のようなダークスーツのサラリーマン。そして沖縄の魚のように色とりどりの服を着たお姉さまたち。甲殻類のような車もユラユラと泳いでいる。酔いのせいでもあるのだが。

 「きつめで、さっぱりとしていて、甘くないカクテル」
 気がつくと彼女がむちゃくちゃなオーダーを出している。でも異存はない。なかなかきれいなカクテルだ。すうっと飲み干した彼女は「じゃ」と言って帰って行った。一人残された私はもう一杯バーボンを頼んだ。
 別にあせる必要はない。家に帰れは彼女(女房だ!)は熟睡しているだろうから。

2003/05/15 掲載
 

カクテルのネタ元は…

 日曜日、なじみのバー「P」は珍しく閑散としていて、カップルのほか客は私一人だった。カウンターにひじを付き、選挙後の静寂が戻った雨の街を眺めていたら、ふと機内誌で読んだエッセーを思い出した。
 「レッドバイキングを下さい」。この店に通うようになってから初めてのカクテルを注文すると、マスターがほほ笑みながら「最近飛行機に乗りましたね」とのこと。ばれているのだ、機内誌に載ったカクテルを注文したことが。
 

null画像 カクテルのネタ元は…(なし)

 本を読んで、そのカクテルを注文する客は結構多いらしい。私もその口だ。今までこのエッセーに書いたカクテルも、いろいろな本がきっかけで飲んでみたものだ。
 カクテルは学校では教えてくれないし、専門書を買ってきて勉強するほどの熱心さもない。いきおい本に出てきたカクテルを、知ったかぶりして注文することになる。

 

 ということは、ほかのバーで注文したのも全部ネタばれなんだろうな。それを温かい笑顔で作っていただいたバーテンダー諸氏には感涙である。
 レッドバイキングはオンザロックスタイルで出てきた。氷は南極の氷だ。ピチピチと太古の気泡がはじける音が耳に心地よい。うっとりと飲んでいたら、あっという間に飲み干してしまった。どうせネタばれだ。もう一杯飲もう。
 「マスター、スティンガーを一杯」。マスターがにっこりほほ笑んだ。

2003/05/01 掲載
 

至福の夜 後悔の朝

 ススキノの真ん中にYという店がある。のれんをくぐって引き戸を開けると、和服の粋な女将が笑顔で迎えてくれる。その笑顔もさることながら、飲み助のオヤジにうれしいのは、酒とさかなのあんばいが良いことだ。
 酒は「越しの寒梅」「雪中梅」などなど。焼酎も「魔王」「伊佐美」など、いわゆる「銘酒」と呼ばれる酒が決して偉そうではなく、普通の顔をして当たり前に並んでいる。さかなは板わさ、からしめんたいこ、めざし、焼いた油揚げ、厚焼き卵、焼きみそ、それに昔懐かしいそばがきなどがちょこちょこ出てきて舌と心をくすぐる。

null画像 至福の夜 後悔の朝(なし)

 そして、何と言ってもこの店のウリは女将自らの手打ちそばである。飲み終わって、そばを手繰って帰るころには、もう頭の中には「至福」の文字しか浮かばない。そば湯があるから、焼酎のそば湯割りも楽しめる寸法だ。普通の居酒屋ではこうはいかない。
 先日もここで飲みながら、昔は酒のさかなは油っこいものが好きだったのに、ずいぶんし好も量も変わったものだと一人悦に入っていた。気づくとなぜか酔いが回っている。これはいかん、ついに酒量も落ちてきたのだろうかと慌てていたら、オンザロックで飲んでいた焼酎「宝山」の度数がウイスキーよりも強いのであった。

 「なんだ、これなら酔ってもあたりまえさ」と安心して杯を重ね、いつものように翌日後悔したのは言うまでもない。

2003/04/17 掲載
 

ススキノ仕込みの外国語

 バンコクに行くと、必ず立ち寄る英国風バーがある。お約束のようにバンドとボーカルのライブがあり、演奏中は話ができないほどうるさい。客はファラン(タイでは白人をこう呼ぶ)と連れのタイ人女性がほとんどだ。
 気に入っているのは、まともなカクテルを飲ませることと酒の種類が豊富なことだ。バンコクでバーボンを注文すると、たいがいジャックダニエルを持ってくる。ワイルドターキーが出てくるのはこの店くらいだ。
 

null画像 ススキノ仕込みの外国語(なし)

 さらに、フィリピン人バンドがうまい。音は大きいが不快ではない。ノリも良いので、客はステージの前で踊りまくる。
 前回行った時、踊っている中にちょっと見慣れない一団がいた。アジア系の女性ばかりが十人くらいで大騒ぎしている。
 見ていたら、同行の友人が「あれはフィリピン人だ」と言い出した。どうやら出稼ぎに来ているらしい。席が隣りだったこともあって、友人が何やら彼女たちと話し始めた。ビックリしてしまった。彼は他国語はまったく話せないはず。世界中どこへ行っても「ジャパニーズオンリー、プリーズ」で通している猛者なのだ。

 閉店となり、友人と彼女らは別れを惜しんでいたが、その言葉を聞いてやっと分かった。彼のタガログ語はススキノ仕込みだったのだ。ススキノ通いも彼の言語の勉強であったかと、妙に感心してしまった。最近彼は美人中国人ママのいるバーにも通っているから、中国語を聞ける日もそう遠くないはずだ。

2003/04/03 掲載
 

娘を訪ね照れる父親

 あるシガーバーで飲んでいたら、扉が開いて渋い中年男性が入って来た。しかし、扉の内側にたたずんだまま中に入って来ようとしない。ただ葉巻を買いに来たようでもないし、もちろんセールスにも見えない。気づいた従業員が迎えに出て一言叫んだ。「お父さん!」
 札幌で働いている娘の様子を見に来たのだ。「いやぁ、仲間と札幌に来てさ、三十分だけ時間をもらったんだ」。席に案内されながら、やや照れた面持ちのお父さんは言い訳のように、でも安心した感じで誰にともなくつぶやいた。

null画像 娘を訪ね照れる父親(なし)

 居合わせた客はびっくりし、バーの会話は一瞬止まってしまった。しかし、一番びっくりしたのはマスターであろう。すわとばかりに飛んで行くと、「どうも娘がお世話になってます」「こちらこそ」などとあいさつを交わしている。
 お父さんが注文したのはダルモアのオンザロック。強いがうまい酒だ。父親と娘、客、マスターの穏やかな時間が流れ、客に気を使ったのだろう、「またくるわ」と十五分ほどでお父さんは帰って行った。
 

 バーに通って長いが、こんな温かいシーンに遭遇したのは初めてだった。娘とバーに来るお父さんはいても、娘を訪ねて来るお父さんはなかなかいないだろう。親というものはいいものだと酔いの中で感激した。
 お父さん、ごつい人相の客がそろっているバーですが、皆気持ちの温かい人たちなのでご安心くださいね。

2003/03/20 掲載
 

使い方を間違えると…

 最近、スティンガーというカクテルにはまっている。
 スティングには「刺す」とか「とげ」とか「悩ませる」という意味があり、「刺す動植物」なども含まれる。
 オリジナルはブランデーとクレーム・ド・ミント・ホワイトをシェークしたものだ。恐ろしげな名前と違って、けっこう清涼感のあるカクテルだが、アルコール度数が約三十度と高いので、油断しているとあっという間に千鳥足になる。

 

null画像 使い方を間違えると…(なし)

 私はこれにアブサンを加えてもらう。さらにベースのブランデーをラムやウイスキー、ジン、ウォッカなどに変えてもらってロシアンスティンガーとか、ブリティッシュスティンガーとか呼んで悦に入っている。
 その日の気分によってさまざまな味わいのスティンガーを飲むのはなかなか楽しい。
 しかし、過ぎたるは何とかであった。先日もいつものバーでいろいろな国の酒をベースにして味の違いを楽しんでいたら、不覚にも次に行こうと思っていたバーにたどり着くことができなかった。

 そういえば、世界各国に配備されている携帯用の地対空ミサイルの名前もスティンガーだった。あっけなくスティングされて、撃ち落とされてしまったというところか。いや、私の場合は自爆か…。
 翌朝の頭の中では「とげ」が暴れ回っていたのは言うまでもない。カクテルも兵器も使い方を間違えると、ろくなことにはならないのである。

2003/03/06 掲載
 

暖かい部屋で冷酒の至福

 「ごくろうさん。ま、熱いのを一杯やんな」。鬼平犯科帳によく出てくるせりふだ。
 日本人は熱い酒が好きなのか、万葉集にも熱かんが詠まれている。世界中で熱い酒はたくさんあるが、かんをつけるのは日本酒と中国の紹興酒だけではなかろうか。あとはだいたいお湯で割ることになる。
 今はやりの焼酎(乙類)は普通、お湯で割るが、お茶で割るのもなかなかおいしい。せん茶だとさっぱりした味で二日酔いになりにくいし(飲み過ぎは別ですよ)、そば焼酎をそば茶で割るのもいきだ。そうすると麦焼酎は麦茶割り、米焼酎は玄米茶割り? これはちょっとワリ乗りしすぎか…。 

null画像 暖かい部屋で冷酒の至福(なし)

 もちろん、熱くしないほうが良い酒もある。中国の田舎に行くと、まったく冷えていない室温のビールが出てくるが、夏場にはつらいものがある。「こりゃ燗(かん)ビールだね」なんてしゃれている場合ではない。しょうがないから「氷塊」でオンザロックにするが、中国人からは白い目で見られる。だがしかし、ビールやシャンパンはきりりと冷えているに限る。

 

 試したことはないが、白ワインもホットではつらいのではないか。赤ワインは結構おいしいのに。
 私はというと、酒類は冷たいのが好みだ。冬に暖かい部屋できりりと冷えた日本酒を飲むのはまさに至福の時だ。
 え、「親の説教と冷酒は後から効く」ですって。ホットいてんか。

2003/02/20 掲載
 

爆睡の友、夜半に復活…

 先日、友人のWとSと久しぶりにすしでも食べようかということになった。約束までに間があったので、まずはWとバーで軽く一杯飲んでからすし屋へ向かった。
 Sも合流し、和気あいあい食事になるはずであったが、Wの様子が変だ。おとなしい。見ると、なんと寝ているではないか。店主も当惑し、握っていいのかどうかを目顔で聞いてくる。「かまわないから」と握ってもらい、小突いてやると、口にすしを放り込みながらも寝ている。まるで寝不足の幼児のようだ。

null画像 爆睡の友、夜半に復活…(なし)

 そこそこに食事を終え、バーでワインを飲んでいると、またしても寝ている。相手にならないから放置していると、ユラユラ揺れながら、でもイスから落ちない。器用である。
 やがて「目が覚めた」と言うので、Wの大好きなクラブヘ行った。あろうことか今度は美人を目の前にしてソファで大いびきをかいて爆睡してしまった。間がもたないこちらのことも考えてほしいぞ。

 

 二十分ほどして「復活!」とばかりに別のバーヘ行った。今度は元気いっぱいだ。一時になっても二時になっても帰ると言わない。あれだけ寝てりゃ当たり前だ。いいかげんこちらがばてる番である。まいったなと思っていたら「看板だよ」とマスターに救われた。
 本人にとっては健康的(?)な飲み方かもしれないが、今度寝たら勘定ごと置いていこうとタクシーの中、眠い頭で固く誓った。

2003/02/06 掲載
 

酒が狂わす方向感覚

バーは私にとって居心地の良い止まり木≠セが、そのカウンターをボーダー(国境)のように思う時がある。決して越えてはならないプロと客との一線だ。
 先日、あるバーで(ここのカウンターの向こう側はりんとして遠い。取材の時くらいしか他人は入れないのではないか)ブーブクリコを飲みながらぼーっとしていたら、奥で騒いでいた団体の一人がふらっと立ち上がったのが見えた。トイレを探しているらしく、厨房(ちゅうぼう)のドアを開けてとまどっている。

null画像 酒が狂わす方向感覚(なし)

 面白いので見ていると、今度はするするっとカウンターの中をカニ歩き移動して、中ほどにいたオーナーの横に張り付いた。まさか入って来ると思っていないオーナーは飛び上がってびっくり。トイレと分かってご案内となったわけだが、この紳士よほどの方向音痴らしく、トイレから出てきて自分の席とはまったく反対の事務所へ入っていこうとしている。気がついたスタッフに注意されると、今度はまたまたトイレに逆戻り。

 で、なんとか席にたどりつき、皆で帰って行ったが、あの様子ではもう二、三軒はしごしたに違いない。ちゃんと帰れるのかなと人ごとながら心配した。
 私の方向感覚は人並みであると思っているが、近ごろは酒を飲んで歩いていると、だんだん自宅から遠く遠くに歩く傾向があるようだ。
 え、この日? ちゃんとタクシーに乗ってまっすぐ帰りましたとも。

2003/01/23 掲載
 

夜のすすきの 元気な女性

 師走に入って、何かとすすきのに出動する機会が増えた(師走でなくても出ているが)。さすがに人通りも多く、特に今年は女性の元気が良いようだ。大騒ぎしているのはだいたい女性陣で、われわれは隅っこでおとなしくしている。
 先日あるバーヘ行ったら、十人ほどの団体が奥のスペースに陣取って騒いでいた。忘年会かパーティーの二次会だろうか、来たばかりらしく手に手に景品を抱えている。

 

null画像 夜のすすきの 元気な女性(なし)

 マスターが忙しくお酒の準備をしている時だ。奥の一人がいら立ってテーブルをたたいて「酒まだか!」と来た。びっくりして見ると若い女性だ。われわれお父さんはそんなことは言わない。「十人分だから時間がかかるんだ」と思いつつ、じっと待つのに。と思っていると、隣に座っていたお父さんも同じ思いらしい。思わず顔を見合わせて苦笑してしまった。
 その後がまた大変だ。ビールだ、バーボンだと注文はひっきりなし。医療関係者で、相当にストレスをため込んでいるらしく、現場での本音が次から次から出てくる。ここに書くのも恐ろしいような話がいやおうなく聞こえてくるのである。

 そのうち、ようやくお開きとなり、ぞろぞろと退席するのを見て、またびっくり。男性がいるではないか。男の声なんかまったくしなかったぞ。
 お隣さんとまたため息をつき、ラガブリンをもう一杯もらい、静けさを取り戻したバーの底でお父さんたちの時間は過ぎていった。

2002/12/26 掲載
 

そして寂しさは消えた

 出張の便が夜だったので、夕方、空港に向かうバス停に立っていたのだが、その物寂しさに気がめいってしまった。心のしんまで冷えていくようだ。アメリカのバスターミナルのようにバーでもあればいいのだが、ここは日本。やっと付いたバスに乗り、「落ち込みたいときはここに来ればいいのかもしれない」と思った。
 空港に着いて無事チェックインを済ませ、時間が余ったので階上のバーヘ寄った。カウンターには美人が一人、携帯電話を傍らにカクテルを飲んでいる。アフターファイブのひと時か、それとも待ち合わせか。なぜか彼女も寂しそうに見える。 

null画像 そして寂しさは消えた(なし)

 そっと数席ほど離れて座り、ウエートレスにエバンウイリアムス・ソーダを注文した。
 それにしても静かだ。先ほどからにぎやかなジャズがかかっているが、会話一つない店の中で空回りして、かえって寂しさに拍車をかけている。
 携帯電話は沈黙を保ったまま、やがて美女は席を立った。店には私一人が取り残された。夜のバス停や空港は何でこんなにも寂しいものなのだろう。

 と、落ち込んでいたら、お代わりのバーボンソーダを作っていたウエートレス嬢、グラスに氷を入れすぎたためバースプーンが入らず、反対側の細いフォークを何としてもこじ入れてかき混ぜようと悪戦苦闘しているのが目に入った。
 何だか心が温かくなり、お代わりを重ねて上機嫌で搭乗した。さっきまでの寂しさはどこへやら…。

2002/12/12 掲載
 

苦い失敗だけじゃない

 お茶を飲もうとして急須から注いだら、緑色のはずのお茶が無色だ。あれっ、確かに茶葉を入れたはずだと確かめると、やはり茶葉は入っていました。ただし急須の中ではなく、茶わんの中に。
 というドジの話をバーでしていたら、バーテンダーの方々の失敗談がいろいろ出てきた。
 ブラッディ・メアリーを作ろうとシェーカーを持った途端、トマトジュースを入れるのを忘れたことに気づいたN沼さん。客の目の前なので途中でやめられず、他の注文のような顔をしてシェーカーを降り続けた。

null画像 苦い失敗だけじゃない(なし)

 ジンソニック(ジン+トニック+ソーダ)を作ったつもりが、ジン抜きにしてしまって気がつかないN田さんと、それを半分も飲むまで気がつかない客のN井さん。
ニコラシカ(レモンスライスに砂糖を乗せて口に入れ、ブランデーを流し込む)の注文を受け、砂糖と塩を間違えて「ニコラ塩」を作ってしまったMさん。Mさんは新人時代に客からチェイサー(酒に添える水)をくださいと言われて、当店では扱っておりませんと返事したそう。しかし客も、ああそうですかと納得したらしいが。まさに弘法にも筆の誤りならぬ、シェーカーの誤りと言うべきか。

 でも、N河さんの若いころの話。ジンのボトルのキャップを飛ばして、向かいにいた若い女性のブラウスの開いた胸元に見事ホールインワンさせたのは、本当に誤りか、はたまた故意か、いまだに謎となっている。)

2002/11/28 掲載
 

アジアンバーはすてき

 台北のヒルトンホテルのバー。なぜかここは欧米系外国人のたまり場になっている。国賓大飯店が日本人のたまり場になっているのとは対照的だ。どちらかというとヒルトンの方が居心地がいいので、夜はだいたいこちらでバーボンをちびちび飲んでいる。
 いつも会計するとき「こんなに飲むならボトルを買った方が安いのに」と同情(バカに?)されるので、今回はワイルドターキーをボトルで頼んだ。しかし四人もいたので二日目には品切れとなり、バーテンダーが「こちらがベスト」と言って持ってきたジャックダニエルを飲むことになった。昨日は笑顔でワイルドターキーがベストだと言ってなかったか? ま、いいさ。これがアジアさ。

null画像 アジアンバーはすてき(なし)

 そのうち、アジアンバーにつきものの生演奏が始まった。珍しくバンドではなく、シンガー嬢とピアニストの組み合わせだ。歌の方はそれなりにうまくて、ルックスも…米国人受けしている。問題はピアニスト氏だ。白い手袋をして(こんなの見たことないぞ)世界中の苦悩をすべて背負ったような顔で演奏している。しかも下手だ。素人の私でも分かる。アジアの夜に苦悩の下手ピアノも悪くない、と心地良い酔いのふちへ沈んだ。

 翌日は日本人のたまり″バー≠フ方へ出かけた。こちらもピアニストが登場したが、昨日とは大違い。いきなりこちらを向いて「コモエスタ赤坂」を弾き始めて、ニコニコ顔だ。やっぱりアジアンバーはすてきだ。

2002/11/14 掲載
 

破壊力#イ群のイモ焼酎

 茶業組合の用事で鹿児島へ行って来た。五十周年記念行事のパーティーがあるという。札幌からは一日一便の飛行機しかないので、前日に入ることにした。
 迎えに来てくれたO君が「何を食べましょう?」と聞くので、「鹿児島のおいしい焼酎が飲めるならどこでもいいよ」とお願いしたら、「焼き鳥屋でも」と言う。

 

null画像 破壊力#イ群のイモ焼酎(なし)

 O君も飲み助なので楽しみにしていたら、焼き鳥屋というよりは、創作料理店のような立派な店構えだ。焼酎の品ぞろえもすごい。魔王、伊佐美、森伊蔵は当たり前。他にも見たことも聞いたこともない焼酎が数十銘柄ならんでいる。してやったりという顔のO君がまた「何食べましょう?」と聞くから、「お任せで」。そう、現地の酒と料理は現地人に任せるに限る。
 鳥刺しが出てきた。しかもレバー、砂肝だ。苦手ではないが、普段はあまり口にしない。今日はやられたわい、と思いつつ料理のうまさに焼酎も進む。種子島の「しまむらさき」、三十八度もある「げんもん」。飲む酒、飲む酒、絶品だ。

 だいぶ酔いも回ったころ、O君がとっておきの焼酎があると言い出した。その名も「破壊王」。恐ろしく強いイモ焼酎で四十三度もある。冷凍庫で凍らせ、ストレートで飲むそうで、O君はハイペースでうまそうに飲み始めた。出張先でこれはたまらんと、私は一杯だけに止めてホテルに帰ったが…。
 翌日パーティーで出会ったO君の足取りは定まらず、しっかりと破壊されていた。

2002/10/31 掲載
 

上海の夜は薄く短く苦い

 上海にて。現地に住む友人が評判のレストランに案内してくれた。店は戦前の租界の建物が並ぶ地区にある。建物は古いが内装や料理はすばらしい。町並みを眺めながら、ノスタルジックな気持ちで食事を堪能した。
 この心地よい夜をもう少しと、Rという世界でも有名なホテルのバーヘ遠征した。さすがRだけあって内装も雰囲気も申し分ない。バーテンダーの小姐(お姉さん)もなかなか粋だ。

 

null画像 上海の夜は薄く短く苦い(なし)

 閉店時間を聞くと午前二時だと言う。ゆっくり飲めると一安心してバーボンソーダを頼んだら一向に出てこない。よく見ると小姐がバーボンを探している。そんな銘柄あるわけないだろ、と思っていたら他の小姐がジャックダニエルを出してこれでいいかと言う。本当はバーボンじゃないけどマアいいや。

 しかし飲んでみるとこれがやたら薄い。二杯目を頼んでよくよく見ると、メジャーカップを使わずに注いでいる。それはいいとして、まったくの目見当で量が極端に少ない。これは許せん。ぶつぶつ言いながら飲んでいたら閉店三十分前にラストオーダーときた。もう一杯だけとお願いして(向こうのほうが偉そう)、勘定を払ってびっくりした。札幌とまったく変わらない値段だ。しかも薄い酒で。
 目の前では酒びんやグラスをばたばたと片づけ始めている。どうやら二時の閉店時間は彼女たちの退社時間らしい。深酒をしたくない方にはおすすめのバーである。

2002/10/17 掲載
 

飲酒運転より危険!?

 先日、ちょっとした異業種交流会に参加した。山海の珍味を食しながら、自然と話題はアルコールの方面へ。このコラムを読んでいる方が多く、まずは私をつまみに「飲み助」呼ばわりである。いつものことなので気にせずにいたら、今度は「飲酒運転をしないと書いたのは本当か」ときた。
 「誓って本当だ、ウソは書かないんだ」と抗議していたら、一人が「最近、取り締まりが厳しくなって、ゴルフに行ってもビールも飲めない」とぼやく。「ゴルフ帰りの検問で同乗者も入れて四人で百万円取られたというウワサだ」と別な一人。

null画像 飲酒運転より危険!?(なし)

 みんなウンウンと聞いていたら、冷静な一人が「周りで本当に捕まったヤツはいないだろう?」。そう言われると、私もウワサだけで実際に捕まった人は知らない。みなもその様子だ。調子にのった一人が「おれ、こないだゴルフ帰りに実験した。ビールをしこたま飲んで、飲んでない女房に運転させたけど、検問なかったよ」。そーか単なるウワサかと喜んで騒いでいたら、後日ゴルフ場経営の友人が「検問はやっている。その日はたまたま会わなかったのでしょう」とのこと。やはり飲酒運転は絶対に危険だ。
 

 「危険といえば、先生」と一人が医者に向かって言った。「医師免許は飲酒で捕まらないのでしょう」。これには一同大笑い。とても危険だから、今度から診療の前に医師の呼気をかぐことにしようか。でも私の方が酒臭かったりして。

2002/10/03 掲載
 

ドラ猫にご用心

 米軍の戦闘機にトムキャット(F14)というのがある。三十年ほど前に配備されたが、まだ現役だ。可変翼があり、強力な攻撃力を持っている。
 トムジンというジンがある。普通のジンと比べると甘い味わいで、ラベルにネコがデザインされていることが多い。その昔、ネコ型の自動販売機で売られていたのが由来だそうだ。何だか招き猫を想像するけれど、黒猫らしい。

 

null画像 ドラ猫にご用心(なし)

 このまま飲んでもおいしいが、エルミタアヂュのママにお願いしてマティニを作ってもらったら、これがいける。とろりと甘くてうまいのだ。しかしこれも立派なマティニだからアルコール度数は高い。
 ネーミングをどうしようと騒いでいたら、常連で飛行機好きのO氏がトムキャットはどうかと言い出した。ぴったりだ。ナイスネームとばかりに満場一致で命名した。

 

 数カ月後、以前エルミタアヂュで働いていたYさんが東京から遊びに来るというので、常連客が集合。和気あいあいと騒ぎ、しこたま飲んだ後に、トムキャットをYさんにプレゼントした。
 さすがアメリカ戦闘機の名前をいただいたカクテルだ。攻撃力はすさまじく、この一杯でYさんはあっけなく撃墜され、カウンターに沈んでしまったのだった。
 確かトムキャットは日本でいうドラ猫のはずである。鋭いつめを持ったドラ猫にはくれぐれもご用心を。

2002/09/19 掲載
 

飲み助は酒に群がるハエ

 この季節、ワイン、シャンパン、日本酒を飲んでいると、どこからともなくグラスに小さい蝿(はえ)が寄ってくる。中には生ごみの周りを飛んでいるやつもいる。手で払っても払っても寄ってくる。けっこう五月蝿(うるさ)い。
 蝿は蝿だが、遺伝子の実験で有名な猩々蝿(しょうじょうばえ)だ。小型で果物が大好物。普通の蝿と違い不潔なところには生息していない。目が真っ赤でなかなか愛きょうのある顔をしている。ドジなやつは時々、ワインの中に飛び込んでくる。
 

null画像 飲み助は酒に群がるハエ(なし)

 で、がさつな私は蝿だけを取り出して飲み続けるのだが、蝿も体が乾くとふらふら酔っ払いながら飛行を始める。いささかわずらわしいが、面白いやつだ。
 われわれ「飲み助」も同じようなもので、酒類のあるところに出没する。先日も一人でおとなしく飲んでいたら仲間が来て、ついには閉店時間無視のシャンパンパーティーになってしまったし、ある時は静かに飲んでいる仲間のところへ私が乗り込み、酒瓶が乱立する酒乱パーティーになったこともある。
 

 まさに、わらわらとアルコールに群がる猩々蝿である。そして、目のみか顔まで真っ赤にして、酒にどっぷりとつかってしまう。しかもふらふらしても懲りずに飲む。でも、アルコールのないところでは決して大騒ぎしませんし、他人には迷惑をかけませんのでご勘弁を。
 やれうつな 蝿が手をする 足をする(一茶)

2002/09/05 掲載
 

フレンチルーレット

 先日、酒好きが集まって「お誕生会」があった。年齢、性別、職業などはまちまちで、共通項といえば酒が強いこと。ちまたの「飲み助」をシェイカーに放り込んで、思い切りシェイクしたような集まりとなる。いつ仲間に入ったのか記憶にないが、私も気付いたら交ざっていたというわけだ。数ある酒の中でも、なぜかこの連中はフランスワインとシャンパンを鯨飲する。

 

null画像 フレンチルーレット(なし)

 プレゼント交換があったりして、宴は和気あいあいと進んでいった。と、一本のワインが出てきて、これはだれそれのおごりだという。これがくせ者なのだ。私はひそかに恐怖のロシアンルーレットと呼んでいる。
 おごりの一本は、当然瞬く間になくなる。すると、今度は別の仲間がおごり返すことになる。これを繰り返しているうちに、どんどん酔っ払い度が進み、しらふではとても注文できない、ドン・ペリニヨンなどという恐ろしくお高い酒を注文してしまうハメになるのである。

 何しろ酒豪ばかり。一人一本なんかじゃおさまらない。ある町内会のお祭りで、入れ代わり立ち代わりワインやシャンパンを十六本も空け、さらに二次会へ繰り出した連中だ。
 やはりその日もかなりの酒瓶が転がったが、皆ひょうひょうとして夜の帳(とばり)の中へ消えて行った。この調子で飲んでいたら、そのうちフランスから勲章でも来るのじゃないか。ん、待てよ。これからロシアンじゃなくて、恐怖のフレンチルーレットと呼ぶことにしよう。

2002/08/22 掲載
 

韓国人のパワーに脱帽

 韓国の仕事先の社長が、三人も連れだってやってきた。商談は担当者に任せ、韓国でお世話になった一飯の恩義を返すべく、夕食でもとススキノに繰り出した。
 行き先は「刺し身屋」というだけあって、鮮度抜群の魚を出す店だ。韓国の人に刺し身はいかがなものかと思ったが、土地のうまいものを食べていただくのがもてなしじゃないかと、勝手にいろいろ注文。酒はと聞くと日本酒をご所望だ。じゃあと「大信州」を頼む。すっきりしたうまい酒だ。
 

null画像 韓国人のパワーに脱帽(なし)

 宴が始まってびっくりしたのは、その食べっぷり飲みっぷりだった。私とそんなに歳が違わないのに、しめサバからかにみそ、はてはコロッケまでばくばく平らげていく。日本酒もものすごいスピードで飲む。大信州はあっと言う間に在庫切れになってしまった。次に頼んだ増毛の「国稀」も飲み干し、そろそろお開きかなと思ったが、念のために聞いた。
 「カラオケ行きますか?」
 「ぜひ!」

 カラオケ屋で飲み放題だった酒は、何と韓国の酒「鏡月グリーン」。外国の曲はハングルばかりだった。三人はさらにパワーアップしてマイクの休むひまがない。二時間たっぷり歌い上げ、飲み上げて、すっかり満足したオヤジ三人は、手を振ってさらなる夜の帳(とばり)の中へと消えて行った。
 さすがサッカーワールドカップ四位の国のパワーは違うわい。アンニョン(またね)。

2002/08/08 掲載
 

飲まぬ夜ほど高くつく?

 グラスの中でミントの葉をつぶし、クラッシュアイスをびっちりと詰める。ここにシャンパンを注ぐとシャンパンジュレップになるが、ちと趣をかえてペリエを注ぐ。ノンアルコールのマイオリジナル、名付けて「ペリエジュレップ」だ。
 車で移動していたので今夜はドライ(酒なし)ナイトと相成った。バーテンダーが「今日は大雨か大雪か」と驚がくしたが、私だって飲まない日はある。自慢じゃないが飲酒運転は絶対しない。酒飲みの仁義だ。たとえウイスキーボンボン一個でも口にしたら、運転しないのだ。

null画像 飲まぬ夜ほど高くつく?(なし)

 さっきから隣で飲んでいる友人がつまらなそうな顔をしている。つまらないのは私の方だ。彼はモルトを飲んでいるくせに、と思っていると、遠慮しているが美人中国人ママの店へ行きたいらしい。あまり正直に顔に出ているので重い腰を上げ、つき合うことにした。
 「土倉先生ナニ飲みますか」とママが言うので「茶」と答えると、「冗談でしょ」と取り合ってくれない。かなりの飲み助と思われているようだ。自分のボトルを横目でにらみつつ、それでも二時間ほどウーロン茶で過ごし、さて勘定となって驚いた。いつもより高価なのだ。お茶は酒よりも高し。

 それから駐車場に行って車を引き取ってまたまたびっくり。駐車料金も高額だった。
 これじゃあタクシーで来て、しこたま飲んだ方が安上がりだ。ぶつぶつ言いながら帰路に就いたが、まあ、こんな日もあるわい。

2002/07/25 掲載
 

下手な中国語でやけど

 職業柄、「水がうまくないのでお茶がうまくない」と相談を受けることがある。主に水道水がカルキ(塩素)臭いということだ。対策はいたって簡単で、二−三分沸騰させるだけ。うそのように臭みはとんでしまう。前日からやかんにくみ置きするのも効果的だ。水割りに使う水も、こうして作って冷やしておくと便利である。
 世界中の醸造、蒸留所は名水の産地にあることが多い。水を加える時も同じ土地の水だと酒の味がいっそう引き立つと言われるが、そんなチャンスにめぐり合う機会はめったにない。

null画像 下手な中国語でやけど(なし)

 札幌の南二条にあるホテルのバーでは、モルトをスコットランドの水で割ってくれる。これで十分うれしくてぜいたくな気分になれる。
 中国・雲南省の田舎町のレストランで、メニューを見たらジャックダニエルがあった。早速「ジャックダニエルと氷固(氷)と開水(湯冷まし)ください」と注文。ウエートレスが変な顔をしていたが、やがて興味津々といった顔つきでトレーを運んで来た。水はピッチャーではなく、分厚いグラスに、入っている。

 グラスに氷と酒を入れ、さて水を、とグラスを持った瞬間「あちちちちっ」。水じゃない。お湯だ。大失敗だ。湯冷ましは中国語で涼開水で、開水とはお湯のことであった。下手な中国語は、まさにやけどの元だ。
 その後しばらくは、汗をかきかき、お湯割りのジャックダニエルを楽しんだのだった。

2002/07/11 掲載
 

恐るべし、多国籍バー

 タイ・バンコクのホテルの地下に英国風バーがある。場所柄、欧米やアジアをはじめ、さまざまな国の客や同伴のタイ人女性もいて、「どこが英国」と思うくらい多国籍バーと化している。
タイでは「お約束」の生バンドも入っている。フィリピン人のバンドで、なかなかの技量だ。バラードからロックまで何でもこなす。

null画像 恐るべし、多国籍バー(なし)

 夕食後、男三人で訪れ、友人はアイリッシュを注文した。アイリッシュウイスキーと砂糖と生クリームまでは普通だが、それにちょっとした演出が付く。おたまで熱して火の付いたスピリッツを高い位置から注ぐのだ。ほの暗いバーで空中を駆ける青い炎は、とても奇麗で幻想的だ。でも、まあ男同士であるから、演出もぶち壊し。ロマンチックになってもブキミなだけだ。
 私はいつも通りワイルドターキーのソーダ割りにした。バーテンダーも覚えていて、人が言う前に勝手に作っている。

 時間が来てバンドが演奏を始めた。やはりうまい。特に右端の女性ボーカルは最高だ。今回はカウンターの一番端、ステージに近い所だったので臨場感も違う。ほかのおしゃべり客と違い、一生懸命聴いているのが分かるらしく、彼女もこちらの方を向いて歌っている。
 曲が終わり、ブラボーブラボーと拍手していたら、彼女がうれしそうに「カンサハムニダ」とあいさつした。え、おれたち、韓国人に見えたのかな?なるほどワールドカップの年だけあるわい。恐るべし、多国籍バー。

2002/06/27 掲載
 

「ミントがない」に困った

 陽気に誘われて散歩していたら、丸はだかだったニセアカシアの木がいつの間にか新緑の葉を付け、スズランの花がかれんに咲いている。外出はいつも車だし、歩くといえば夜の街専門″ということで、久々の緑だ。
 いつもこの季節になると、緑色のミントを使ったカクテルが私のメニューに登場する。
 ひとつはミントジュレップ。つぶしたミントの葉とバーボンの組み合わせだ。本当は競馬場で昼に楽しむ酒らしいが、夜だってうまい。確かに天気の良い昼下がりに飲むには最高のさわやかさだが、そんな都合良く開いているバーがあるわけない。

null画像 「ミントがない」に困った(なし)

 もうひとつはモヒート(モジートともいう)。同じくつぶしたミントとラム酒だ。私はホワイトラムをダークラムに替えて作ったものが好きだ。
 これらのカクテルの面白い点は、作っている時に近くの客がミントの香りに誘われて「それは何?」となり、「じゃ私も」となることだ。まるでウナギ屋の煙、お茶屋のほうじ茶効果だ。

 先日、とあるバーのマスターにほかにミントを使ったカクテルはないかと尋ねたところ、シャンパンジュレップがあるというから喜んだ。目の前では、ちょうどテタンジェというシャンパンがきりりと冷えている。
 さっそく注文すると、マスターは残念そうな顔で「今日はミントがありません」と宣言するではないか。そんな、そりゃないぜマスター。マスターの目が意地悪そうに笑って見えたのは、私のひがみか幻か?

2002/06/13 掲載
 

モルトに合う葉巻がうまい

 シガーカッターで端を切り、葉巻専用の長いマッチで火を付ける。一服目の紫煙が口腔(こうこう)に広がる。今宵もモルトがうまい…。と、まぁハンフリー・ボガードならさまになるとこだが、私がやると格好が付くと言うよりはかなりインチキくさく見えると言われる。何でだ。
昔から「し好品」が大好きだ。お茶屋だから日本茶はもちろん、中国茶、紅茶、コーヒー、たばこ類、酒類と、あらゆるし好品を愛飲?している。

null画像 モルトに合う葉巻がうまい(なし)

 ただ不器用なせいかパイプたばこだけは長続きがしない。何回も試してみたが、なかなか火が付かず、最後は疲れてパイプを放り出し、紙巻きたばこでやれやれ一服、という何とも情けない始末となる。
 その点葉巻は楽で、確実に火が付くしおいしい。モルトウイスキーとの相性もすごく良いから、最近は葉巻がバーでの盟友だ。しかしいくら好みでもまさか昔のギャングさながらに、昼日中からくわえ葉巻もできないし、禁煙指向のご時世にレストランで吸ったらどんな目に遭うか…。という訳で、もっぱらバーで楽しんでいる。

 東急インの南側にある酒屋さんの地下に葉巻を置いているバーがある。管理がしっかりしていて、いつ行ってもうまい葉巻が買えるし吸える。モルトも実に充実している。
 何かと肩身の狭いオヤジにも、たまにはこういうくつろぎの場所が必要なんです。と、言い訳しながら、今日もまたバーヘの階段を下りていくのだった。

2002/05/30 掲載
 

うわさ話はおいしい肴

 先日、粋な料理と酒を出す隠れ家みたいな酒場で、例年になく早い山菜と純米酒を楽しんでいたら…。
 店長が「土倉さん、先日の宴会はこぢんまりとやったそうですね」と言う。びっくりした。「あれ、別の店なのに、何で知っているの?」
 そう、私の生息する界隈(かいわい)は、とっても情報伝達が早いのだ。だれがどこでデートしていたとか、だれが酒を飲んで寝ぼけていたとか、やたらに早い。恐ろしくてうかつなことを言えないし、落ち着いて酔っぱらえやしないのだ。

null画像 うわさ話はおいしい肴(なし)

 たとえば一次会で酔っぱらって大騒ぎしたら、三次会に行くころには「土倉は今日は酒乱だ」とリアルタイムでうわさになるほど早い。それが後日になると「土倉はいつも酒乱だからそばに寄らない方がよい」と尾ひれが付く。
 まあこの程度はご愛きょう。でも、私はこの情報伝達組織?をひそかに「○○界隈ネットワーク」と呼んで恐れている。いつも紳士的におとなしく(自分で思っているだけだが…)酒を飲んでいるのは、このネットワークを意識してのことなのだ。

 しかし、酒を飲んでいると、人のうわさはおいしい肴(さかな)になる。当然私も、よりおいしい肴を求めて店をはいかいする。でも私がいない場所では結構、肴にされているんだろうなあ。
 エッセーのタイトルじゃないが、これも別な意味での「さしつさされつ」なのでしょうな。

2002/05/16 掲載
 

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